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インバルのマーラー「交響曲第10番」(D・クック復元版)

2010.01.23 - マーラー

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マーラー:交響曲第10番 インバル指揮フランクフルト放送響


池田清彦の「人はダマシ・ダマサレで生きる」を読む。
気鋭の生物学者である池田が、環境問題や政治などについて熱く語る。どれも一見過激だがまっとうな意見。
そのなかで教育について語ったところを引用する。
「答えがある問題は、コンピュータにやらせておけばいいのであって、人間がやる必要はない。いざとなったときにどうしたらいいか問題になるのは、必ず前例がないケースなのだ。そういう困難な問題が発生したとき、的確に判断する能力は、ペーパーテストの能力とパラレルにならない」。
長い人間の歴史のなかで前例のない問題というのはもう少ないかもしれない。ただ人間はすべてユニークであるのでそれぞれ個別に対応をしなければならない。それを考える作業は当人にとってはいつも前例がないわけだ。
この著者の多くの本のなかで、これはよく練られた本だと思う。最後は切れ味鋭いオチで締めくくられる。


インバルは平均点の高い演奏家だ。「こりゃないよな」なんてハズレはほとんどない。いつも丁寧でまっとうであり、真面目さが演奏ににじみ出ている。ただその反面、ホームランも少ないようだ。
インバルここにありということを世に知らしめたブルックナー以降、ヒットは多いものの大ホームランは見当たらない。
マーラーの交響曲はどれもなかなかのものであるが、腰が抜けるほどではない。いい味を出している指揮者なのにどうしてだろう。
その責任の多くは、デノンの録音にあるように思う。弱い音から強烈な音まで歪みなく、すみずみまで透明なものであり、悪いとはいえない。でも、音色は総じて極めてメタリックで立体感や柔軟性に欠けるため、実際の演奏の風味を殺している。一言でいえば、雰囲気に乏しい。
インバルのマーラーのベストは、以前FMで聴いたオーストリア放送饗との「夜の歌」だと思う。録音はヨーロッパの放送局特有の、残響豊かなざっくりとしたものだが、それが会場の臨場感をうまく伝えているのだった。
これを聴いたときはたまげた。インバルのマーラーがこんなにスゴイものだったとは。
それに比べるとデノンの録音は、オーストリア放送局のものよりも音を鮮明に捉えることに成功しているものの、リアルさに欠けている。平板なのだ。
そういう意味で、ディスクにおいてインバルはかなり損をしているのではないだろうか。マーラーの交響曲しかり、ベルリオーズしかり。
この10番も録音の傾向は同じである。これがデッカやフィリップスだったらと夢想する。
ただ、演奏はかなりのものだ。10番という曲は、なかの3楽章はちょっともの足りない感があるものの、両端楽章のボルテージの高さはマーラーのなかでも屈指のもの。全体的にレベルの高いインバルのマーラー演奏のなかでも、緊張感の高さと精密さにおいて最高クラスに位置するのじゃないかと思う。

1992年1月15~17日、フランクフルト、アルテ・オパーでの録音。

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Comment

無題 - rudolf2006

吉田さま お早うございます〜

池田さんの本、面白いですよね
真っ当な議論をしておられると思います。
ただ、ペーパーテストごときをできない人には「自由な発想」も出来ないのも事実かもしれませんね〜。

アメリカの心理学者だったと思いますが、How Children Learn(Fail) 二冊あります。誰だったかな?アマゾンで調べました、爆〜 John Holt だったです。
厳しいことを書いてあり、unintelligence はintelligence を薄めたものではなく、カテゴリーが違うと〜。ですが、ともすると、ペーパーテストは批判されますが、ペーパーテストなど、暗記すればできることで、私は簡単なことだと思います。(傲慢でしょうか、爆〜)。
楽器でもそうですが、いくらアドヴァイスされても、まったく試しもしない方が多いです、試してみることをしない人、この方々が dull/ intelligence に欠けると言えるのかもしれませんね〜。先週も指揮者の先生と話したんですが「嫌いだなんて言えるためには、まずその演奏法ができてから言え」って、爆〜。試すこと、実験すること、調べてみること、これができることこそが intelligence ではないでしょうか? 私がどうかは、さておき、爆〜。

インバルの演奏、確かにデンオン盤、平板な感じがぬぐえませんね〜、私もブルックナー、マーラーを持っていますが、あの音で損をしているかもしれませんね〜。
デンオンは、東独系の録音は素晴らしいですが、どうなっているのでしょうか?
分かりませんね〜

ミ(`w´彡)
2010.01.24 Sun 07:41 URL [ Edit ]

Re:rudolf2006さん、こんにちは。 - 管理人:芳野達司

いつもコメントをありがとうございます。

池田さんは最近テレビでもちょくちょく見かけます。ひそかに漫画家のエビスさんに似ていると思います。愛嬌が作品にもにじみ出ているようです。養老さんと仲のいいせいか、意見が似ています。その逆かもしれませんが。

ワタシはペーパーテストも苦手です。しかしこれをクリアしないとなにかと不便です。とりあえずこれが得意ならある程度適当に世の中を渡っていけるような気がしなくもないので、これがこなせるヒトはうらやましいです。

>試すこと、実験すること、調べてみること、これができることこそが intelligence ではないでしょうか?
確かに、机上の考えだけでは仕事はうまくいきませんね。
2010.01.24 16:15

無題 - neoros2019

このマーラーと平行して同時にショスタコをウィーン響で録音していたんですね
HMVのレヴュー欄をみても、好き嫌い・賛否がマーラーにしてもショスタコにしても真っ二つに分かれているのが興味深いです
ベルリオーズとマーラーについての吉田さんの意見にほぼ同意ですね
(10番アダージョはクーベリックが好きですけど)
ショスタコは全部揃えるか、ここで止めとくか迷っています
2010.01.24 Sun 07:45 [ Edit ]

Re:neoros2019さん、こんにちは。 - 管理人:芳野達司

いつもコメントをありがとうございます。

インバルのショスタコは、6と12のみ聴きました。マーラーやベルリオーズに比べると、いくぶん録音に奥行きがあるように感じました。録音場所がちがうせいなのか、勘違いなのか…。
演奏そのものは大変よかったので、4、8あたりも聴いてみたいですね。ウイーン響は地味ですがかなりうまいオケだと知りました。
クーベリックのマーラー全曲を3年ほど前から聴きついでいますが、まだ何曲か残っていて10もそのひとつです。早ければ今年中に聴けるかどうか。
2010.01.24 16:20

無題 - ニョッキ

こんばんは。

インバルの10番は私にとって宝物の演奏です。
この演奏でクック版の魅力に開眼した次第です。

仰る用意確かにDENONの録音がメタリックな印象ですがそれを差し引いても余りある魅力があります。
ザンデルリンク盤とならんで最高だと思います。
2010.01.26 Tue 23:41 URL [ Edit ]

Re:ニョッキさん、こんばんは。 - 管理人:芳野達司

いつもコメントありがとうございます。

マーラーのクック版、ニョッキさんの以前の投稿を拝見し久々に聴きたくなったのです。モリスの演奏以来なので、もう何十年振りか…。
この演奏のインバルはいつも以上に気合が入っているようです。特に終楽章がいいように感じました。第九にも劣らぬウツクシサ。これはまさしくマーラーです。
ザンデルリンクはいいですか、聴いてみたいものです。
2010.01.27 19:23
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