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リヒテルのベートーヴェン「後期三大ピアノ・ソナタ」

2006.12.16 - ベートーヴェン
リヒテル

リヒテル/ベートーヴェン「ピアノソナタ30,31,32」


NHKの「プロジェクトX」にリヒテルが出ていたというのを、少し前に友人から聴いた。
舞台は昭和40年代。日本楽器(現:ヤマハ)が、世界に通用するようなピアノを製作するべく、様々な努力を重ねて、第一級のピアニストであるリヒテルに認められるまでになる、という話らしい。
圧巻はラスト。リヒテルがついにヤマハの工場にやってくる。そしておもむろにピアノを弾き始めると、周りで見守っていた工員たちが号泣したということだ。
これは観たいと思い、レンタルビデオ屋を回ったのだが、この巻はどこにいってもないのである。
ネットでも調べてみたが、絶版とのこと。書籍化したものはあるようだが、どうせなら映像が観たいものだ。


このベートーヴェンにはヤマハを使用したであろう、1991年録音。リヒテルが76歳の時である。
この頃のリヒテルは粒だった軽やかな音色が目立ち、若い頃の機関車のようなパワーある重厚さよりも、音色の溶け具合に重点を置いた弾き方をするようなったと感じる。
私は最後の来日公演でこのピアニストを聴くことができたが、そこでのグリーグの、爽やかな風のように繊細な演奏は、それまで聞かされた「ヴィルトゥオーソ」のイメージとはいささか違ったものであった。

30番は、冒頭から情緒的な側面を強調した演奏になっていて、とても肌触りのよいものになっている。
情緒的といえば31番はよりそれを感じる音楽であるが、この小粒ながらも豪壮な音楽では、速いパッセージでもたつく箇所があって、見逃すには大きな傷となっているのが残念。さすがにこの名人にも衰えはあるのだという安心感と、寂寥感がある。32番の第1楽章では、昔ながらのスケールの大きい演奏を聴くことができる。とても雄弁で大胆。作曲年代としては最晩年ではないが、底のないような深みに突入し、さらにつっきって現代の扉を開けたような終楽章の演奏では、ムラがあって面白い。
ジャズ風のリズミカルな部分での瑕疵は小さいものではないが、そのあとに続く弱音で奏される分散和音の響きの精妙さはスゴイ。機械的な美しさではなく、1音1音がそれぞれ違う、生命を持っているような広がりがある。リヒテルのピアノがベートーヴェンの深みに到達しえた演奏だと思う。




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Comment

無題 - bitoku

こんにちは。

吉田さんのこの記事を読んで改めて2度も聴いてしまいました。今、3度目を聴いています。(笑)

プロジェクトXは私も見逃した口で図書館のライブラリーを探しましたが、見つかりませんでした。

>弱音で奏される分散和音の響きの精妙さはスゴイ。機械的な美しさではなく、1音1音がそれぞれ違う、生命を持っているような広がりがある。リヒテルのピアノがベートーヴェンの深みに到達しえた演奏だと思う。

同感です。ゆっくりとした静かに祈るような静謐な演奏が印象的でした。でも相変わらず力強い重いタッチもあってリヒテルらしい。
リヒテルというと壮年期のガンガン引き倒すイメージがありますが、この晩年の演奏はより一層の深みがあって本当に素晴らしい。
ミスもありますが”ありのまま”のコンサートの記録なので生きた演奏が感じられて好きです。
今でもCDで聴ける事に感謝です。

>機械的な美しさではなく

機械的な演奏のCDがちょっと多すぎなような気がしますね。名演も多いですけど。。。


2006.12.17 Sun 12:45 URL [ Edit ]

Re:bitokuさん、こんばんは。 - 管理人:芳野達司

ベートーヴェンのこれらの曲は実に滋味と軽やかさがあって素晴らしいです。何度聞いても飽きないし、いろいろな演奏を聴きたくなります。

「ゆっくりとした静かに祈るような静謐な演奏が印象的」
仰るとおり、晩年のリヒテルが到達した高みにある演奏です。
技術はさすがに衰えましたが、円熟という言葉では生ぬるいほどに深い味わいのある音楽です。
若い頃のリヒテルも魅力的ですが。
大音楽家らしい、いい歳のとり方をしたのでしょう。
2006.12.17 21:37
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