モーツァルト「クラリネット五重奏曲」 タッシ矢田津世子の「茶粥の記」は、嫁の夫への回想と、姑との交流を描く短編。
若くして亡くなった夫は役人でありながら、食通が高じてときどき雑誌に記事を書いていた。これは鳥取の夏牡蠣についての記述。
「身が大きく厚いところへもってきて実に色艶がいい。こいつの黒いヘラヘラを取ってね、塩水でよく洗って酢でガブリとやるんです。旨い。実に旨い。一と口で? いやあ、とても一と口でなんか食えやしませんよ・・・」
夫の書いたものは、実はみんな想像。夏牡蠣も鮑も鯛の生作りも食べたことはないのだった。想像の豊かさで、食通としてとおっていた。
そうした記事を読み返して「嘘ばっかり」と詰る嫁の可愛らしさ、せつなさがいい。
アンサンブル・タッシの懐かしい演奏を聴く。昔はよく図書館でLPを借りて聴いたものだったけど、最近は名前をあまりきかないので、アンサンブルの活動はしていないのかな。
ストルツマンのクラリネットは、カラッとしていて明るい。モーツァルトの後期の曲にしては、「陰」が少ないとも言えるかもしれない。じわじわにじみ出るような陰影もいいものだが、こうした率直で明朗なモーツァルトももちろん悪くない。2楽章のような音楽は、苦みばしった演奏よりもカラッと鳴らしたほうが、むしろ味わい深いのじゃないかという気がする。
3、4楽章は抑揚が強め。弦楽もクラリネットも2楽章までよりも情感にあふれていている。前半と後半と対比が面白い。
タッシ
リチャード・ストルツマン(Cl)
アイダ・カヴァフィアン(Vn)
ルーシー・ストルツマン(Vn)
ダニエル・フィリップス(Va)
フレッド・シェリー(Vc)
1977年12月、ニューヨークでの録音。
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