ベートーヴェン「田園」 マゼール指揮クリーヴランド管弦楽団チェーホフ(鈴木三重吉訳)の
「てがみ」を読む。
9歳のユウコフは故郷のマカリッチのだんなに手紙を綴る。
母親をなくし天涯孤独の身になったユウコフは、奉公のため靴屋に入れられる。靴屋は暴力をふるうし食事もまともに与えてくれないから逃げ出したかったが、靴のないユウコフには無理な話だ。
「だんなさま、どうぞ、わたしをひきとりにきてください。キリストさまのおんなにかけて、きつときつときてください」。
この話の行方は読者に委ねられるわけだが、舞台がクリスマスの夜というところがミソ。ユウコフ少年はきっと救われる、と読んだ。
マゼールとクリーヴランドの「田園」は全体を通して聴くと、いくぶんムラのある演奏だ。
1楽章は19世紀初頭のドイツ森のささやきを弦楽のうねりに感じたいところなのに、響きがくぐもっているので、森というよりは昭和の東京の光化学スモッグのような味わいだ。
4楽章はもっと激しい、メリハリの強いやり方を期待したが、わりとおとなしい。はるか太平洋沖に大きくそれていった台風のようだ。
それに対して、ゆっくりとした楽章は気に入った、というより相当な演奏だと思う。
2楽章の端正な佇まいはすばらしい。浮世とは隔絶した形而上的な何かが、ゆらゆらと漂っているようだ。ことにクラリネットのソロは、孤高なまでの美しさ。
終楽章は、途中まではとくに目立って良いところを見いだせなかったが、ラストのためいきのような弦楽のメロディーにやられた。「田園」で久々の感動。
1977,78年、クリーヴランドでの録音
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