マーラー「交響曲第9番」 クーベリック指揮バイエルン放送交響楽団「お金じゃ買えない。」は、元スーパーサラリーマンの藤原和博の、よのなかの歩き方シリーズ1弾。
「履歴書をつくろう」という章に書かれている提案が面白い。
キャリアの説明でよく使う言葉がある。
「・・・に関わった」、「・・・に参加した」、「・・・を推進した」。
便利だからよく使うが、実は何も明らかにしていない言葉なのだ。「結局あなたは何ができるんですか」と言われると、口ごもってしまう。耳が痛い。
転職をするかどうかは別として、自分ができることを棚卸して「何が売りか」を抽出して自分の見えない資産を発見することが肝要だという。
便利な言葉には落とし穴がある…のかな。
来日公演でマーラーの第9を演奏することになっていたクーベリックが、当初予定されていた日比谷公会堂の音響に難色を示したため、会場を東京文化会館に急遽変更して行ったというエピソードは、昔に聞いたことがある。マーラーをやる代わりに、日比谷で演奏された曲はベートーヴェンであったらしいが、気に入らない会場で代替としてやられる音楽をなんだか気の毒に思ったものだ。
マーラーの編成の大きさからそうした措置がなされたというが、音響面での考慮もあったのだろう。マーラーはデリケートだからダメ、ベートーヴェンは大雑把だからOK、なんて。両者の作品の性格の違いが、そこはかとなくわかるエピソードではある。その違いをうまく言葉では言えないけど。
さて、今日聴いたのは、その東京でのライヴ。
1楽章は、DGでのセッション録音よりも熱気がありメリハリも大きいが、金管の瑕疵が目立つ。ここぞという見せ場でコケているので、集中力がやや切れる。
2楽章の前半も金管は安定しないところがあるが、だんだん立ち直っていく。
3楽章はキレがいい。文化会館のデッドな音響に潤いは乏しいが、その反面、音がなまなましい。
4楽章にはいると、見違えたように音がこなれてくる。まず弦楽の響きが全然違う。柔らかくてつややかで密度が濃い。官能的といってもいい。続くファゴットやフルート、ホルンも弦の流れにゆるやかに溶け合う。それはあたかも大河を思わせる大きなゆったりとした流れ。
終楽章が際立っていい演奏である。
1975年6月4日、東京文化会館大ホールでのライヴ録音。
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