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ジュリーニのヴェルディ「椿姫」

2007.02.18 - ヴェルディ

椿姫

ヴェルディ 「椿姫」 ジュリーニ指揮ミラノ・スカラ座 ヴィオレッタ:マリア・カラス アルフレード:ジュゼッペ・ディ・ステファノ ジェルモン:エットーレ・バスティアニーニ


黒田恭一によれば、「椿姫」はデュマ・フィスの戯曲であり、それをもとにしているが非なるものであるヴェルディのオペラは「ラ・トラヴィアータ(道を踏み外した女)」と読むのが正しいらしい。
と言っている本人は「僕は『椿姫』のほうがしっくりくる」なんて言って「椿姫」呼ばわり(?)しているのだが、私も「椿姫」派かな。なんか色気があるではないか。「トラヴィアータ」だとパスタの名前みたいで腹が減る。でもこういうおよそ誰も気にしないようなウンチクを嫌いではなく、酒の肴にはなかなかいいものだ。

このカラスの「椿姫」は1955年5月28日のライヴ録音。この頃のカラスは人気の絶頂にあった。

彼女とヴィスコンティとの出会いは1948年にさかのぼる。
ローマで「パルシファル」の公演を観ていたヴィスコンティは、クンドリー役のカラスをすっかり気に入る。当時、セラフィンやメネギーニ(カラスの夫でプロデューサー)の監視下にあったという彼女に対し花束を始めとしていろいろなアタックを仕掛けで近づいて協力関係を築いていき、やがてスカラ座で舞台演出とヒロインという関係で数々のヒット作を生み出してゆく。お互いに霊感を刺激しあう親密な関係であった。
「椿姫」は最大の成功作のひとつであり、スカラ座の歴史上において記録的な収益をもたらした舞台となった。この時期、オペラ・ファンはカラス派とテバルディ派というものがあって、「椿姫」の公演の最中には天井桟敷に陣取ったテバルディ派の観客から野次と口笛が鳴らされたという。
以上、「マリア・カラス情熱の伝説」(クリスティーナ・G・キアレッリ著)より。

読めば当時の熱気溢れるオペラ・ハウスを彷彿とさせる。これらの話はカラスの神話を良くも悪くも多彩に飾る重要なエピソードになっている。こういうものも、酒の肴にはふさわしい。

さて、ジュリーニの指揮するヴェルディの「椿姫」である。
あらすじ:
ヴィオレッタは高級娼婦。彼女の家でパーティが催され、紹介されたアルフレードと相思相愛の仲になり一緒に暮らす。そこへアルフレードの父親ジェルモンが訪れて、娘の縁談に差し障るとして別れを迫る。ヴィオレッタは出てゆくが、その事情を知らないアルフレードは憤慨する。ある夜会でアルフレードは賭博で勝ち進むが、ヴィオレッタと口論になり彼女を激しく侮辱する。その後、ヴィオレッタは結核が悪化し瀕死に至り、そこへアルフレードが駆けつけて和解するも、ヴィオレッタは力尽きて死ぬ。

第1幕のパーティの場面は目くるめく夢のような音楽。香水や化粧や酒の匂いがむせ返るような、華やかで浮き立つような雰囲気が眼前に現れているよう。カラスは出だしではあまり声が出ていないように感じたが、徐々にエンジンがかかり始め、第2,3幕においてはとても振り幅の大きな情感のある歌を聴かせてくれる。死に落ちてゆく女の不幸がリアルに感じ取れ、感情移入せずにはいられない。涙を誘いますな。
ステファノもバスティアニーニも、美声を生かした生々しい演技を感じる歌いぶり。
録音の悪さは、カラスの歌を損なわないが、ジュリーニが指揮するオケにとってはかなり不都合といえる。ポルタメントをきかせた大時代風な歌わせ方と、メリハリのきいたイキの良さを発揮して才気煥発な指揮ぶりだが、フォルテッシモになると音の貧弱さを隠せない。この盤について、ジュリーニがあまり目立たない存在になってしまっているのは、これが大きな原因なのでしょうね。
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Comment

無題 - Niklaus Vogel

吉田さん、こんばんは!
「椿姫」のことではなく恐縮ですが、カラスのクンドリー(「パルジファル」)はイタリア語歌唱ながら、きわめて印象的です。個人的には、カルメンとならんで、こういう役柄こそカラスに適していると思えます。
ところで、ジュリーニらしさが存分に生かされた録音を今月取り上げる予定です。
またよろしくお願いいたしますm(_ _)m
2007.02.18 Sun 22:10 URL [ Edit ]

Re:Niklaus Vogelさん、こんばんは。 - 管理人:芳野達司

カラスのクンドリーを聴かれましたか。しかもイタリア語ですか。カラスがワーグナーを歌っていたとは意外です。録音が残されていることも知りませんでした。
「椿姫」ではカラスはいいところ取りでしたが、ジュリーニは面白くなかったでしょうね、血気盛んな年頃(?)ですし。
そのジュリーニの記事を楽しみにしています。
2007.02.18 22:29

無題 - bitoku

こんばんは。
これも名盤の誉れが高いですね。

>ポルタメントをきかせた大時代風な歌わせ方と、メリハリのきいたイキの良さを発揮して才気煥発な指揮ぶりだが、フォルテッシモになると音の貧弱さを隠せない。

全く同感です。ジュリーニの指揮は名演の誉れ高い演奏なんですが、録音の貧弱さが残念です。
正直言って音質が悪いので普段聴く定番にするには辛いです。
でもカラスのヴィオレッタはやはり圧倒的です。こんなに命を掛けて歌うような人はもう出ないでしょうね。

スカラ座では1964年12月17日のカラヤン、ミレッラ・フレーニのコンビでの上演の失敗以来、スカラ座での「椿姫」の上演はずーと封印されていたそうですが、
1992年のムーティ指揮でヴィオレッタがファブリッツィーニ(ソプラノ)のコンビでなんと30年近くに及ぶ封印が破られた公演のレーザーディスクを良く見ています。
オペラは字幕も出て楽なので映像で掛ける事が多いです。

でもやはりカラスは別格です。凄すぎです。
2007.02.19 Mon 00:10 URL [ Edit ]

Re:bitokuさん、こんばんは。 - 管理人:芳野達司

そうなんですよね、歌手の声はわりとよく聴こえるのですが、オケの音がもうすこしよく出ていればありがたいのですけどね。
とはいえ、場面ごとに盛大に湧き上がる拍手を含めて、劇場の濃厚な雰囲気をたっぷり味わわせてくれる録音ではあります。
カラスはもういくら褒めても足りないくらいの素晴らしさで、ホントに感服しっぱなしでした。

そういえば、ムーティの上演の話はかなり話題になりましたね。数年後に同じコンビで日本にも来日したようで。ムーティの演奏はカットなしで原典に近いそうですね。これも魅力的です。
そう、オペラはやはり演奏付きで観るのが良いようです。対訳をつき合わせて聴くことを考えるとおっくうになってしまいます。
2007.02.19 00:56

無題 - rudolf2006

吉田さま お早うございます。

「椿姫」と言えば、トスカニーニ盤をまず思い出してしまいます。そう言えば、他の盤を持っていなかったような~;
一度だけオケピットで演奏したことがあります。ヴェルディのオーケストレーションは、「椿姫」の頃はまだ後期ほど精緻なものではないですが、結構面白かったです。
ジュリーニ盤ですか、良さそうですね、ですが、私は、ニルソン派なので、爆~ あああ、リザネクさんのトスカは、持っていました、ドイツ語版ですが。
ミ(`w´彡)
2007.02.19 Mon 08:09 URL [ Edit ]

Re:rudolf2006さん、こんにちは。 - 管理人:芳野達司

これを演奏されたのですか。rudolf2006さんは管弦楽曲や室内楽のみならず、オペラまで演奏されるのですね!
ピットで演奏するのはやはり舞台の上とは違う雰囲気があるのでしょうねー。
この「椿姫」、ジュリーニというかやはり「カラスの」といったほうがすんなりくるような。オケの部分はちょっと聴きづらいです。
リザネクの「トスカ」も凄そうです。
2007.02.19 12:59

無題 - garjyu

こんにちは。
確かに歌を聴くには良いのですが、音楽全体を聴くにはやはり苦しい。ジュリーニ大好きな私ですが、結局手放してしまいました。
カラスの歌は望めなくとも、ジュリーニがDGにリゴレットやファルスタッフと一緒に録音してくれていたらなあ。と思いますね。
2007.02.19 Mon 08:31 URL [ Edit ]

Re:garjyuさん、こんにちは。 - 管理人:芳野達司

ライヴの熱気はすごく伝わってくるのですが、肝心のオケの響きが伝わりづらいですね。やはりこれはカラスを聴くための盤ということになりますか。
そうそう、ジュリーニの「リゴレット」あたりの録音は素晴らしいものです! 歌手もいいですし、あの頃にもっとオペラを録音してくれたらなあ、と思わずにいられません。
2007.02.19 13:03
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