2016年4月24日、東京、サントリー・ホール
シェーンベルク 「ワルシャワの生き残り」
ベルク 「ルル」組曲
ブラームス ドイツ・レクイエム
ソプラノ:チェン・レイス
バリトン&ナレーション:クレシミル・ストラジャナッツ
混声合唱:東響コーラス
ノットの「ワルシャワの生き残り」を聴きたくて、この公演に足を運んだ。
この曲を初めて聴いたのは中学のとき。ちょうどブーレーズがBBC交響楽団を指揮したLPが出ていて、近所の図書館に新譜として置かれた。
友人が「『ワルソー』は歌詞を見ながら聴くと感動する」と勧めるので、そうしたら感涙した。
多感な時期とはいえ、中高年の今ほど涙もろくはない。音楽を聴いて泣くなどということは、当時はめったになかったのに。
ナレーションは、第二次世界大戦中にワルシャワのゲットーで処刑されようとしたユダヤ人の恐怖体験。最後に男声合唱によってユダヤ教の祈祷文が歌われる。
ストラジャナッツのナレーションは柔らかくておおらか。ライヒやプライに比べて声に悲愴感が薄く、若々しい囚人であり、それが新鮮だった。
彼がとうとうガス室に送られようとする時、後方でやおら立ち上がり、祈祷文を歌う男声合唱は、やはり圧巻であった。ここにはなにやらわからぬ音楽の底力が、地下から湧き上がるようにあった。そして、歌う直前に立つというパフォーマンスにもやられた。
号泣。
「ルル」はオペラから抜粋した組曲である、といっても作曲年代を鑑みるとオペラとほぼ同時に作られたようだ。
ねっとりドロドロとした退廃的な音楽である。
全体を通して精緻な演奏。ノットは各パートを完全に掌握し、明晰な響きを聴かせた。なので、退廃的というよりは、わずかに朝の光を感じた。
ソプラノはこってりと甘く官能的。ただ、声のコントロールがしっかりしており、高い知性を持ったルルだった。
そのように、演奏者はオーケストラを含めて申し分なかったが、それでもなお、1曲目の冗長さは救えなかった、と感じる。
ドイツ・レクィエムという曲も、実はあまり好きではない。でも、素晴らしい演奏だったという手応えはある。名演といってもいいかもしれない。
鍛えあげられたのだろう強靭な合唱を始め、ソロ歌手、オーケストラは、これ以上を予想するのが困難なほど、質が高かった。
そして、塵や淀みをじっくりと時間をかけて丁寧に濾したような、純度の高い重厚さもあった。
合唱とオーケストラとの音量のバランス、それにオーケストラの各パート間のバランス、いずれも優れていて、それが実に自然な形で現れていたことは、指揮者の采配に違いない。
なお、全体を通して、合唱は暗譜、オーケストラはヴァイオリンの対抗配置だった。
ノット、夏のブルックナーがおおいに楽しみである。
春。
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