
井出よし江さんのピアノリサイタルに足を運びました(2025年6月29日、王子ホールにて)。
ここ5,6年に井出さんのピアノを何度か聴いていますが、今回がもっとも充実していたと感じました。
バッハにおける序曲と舞曲は、厚い響きでもって、それぞれの色の違いが浮かび上がっているよう。「サラバンド」はゆっくり、その他は快速。8曲目「エコー」の強弱のコントラストは楽しかった。
ブラームスは晩年に少なくない間奏曲を残していますが、作品117はもっともしっくりきます。湿った夜更け、ガス灯にぼんやりと照らされた石畳のような風情を想起し、一杯やりたくなりました。
シューベルトの最後のソナタは実演で何度か聴いています。なかには1楽章が冗長に感じる演奏もありました。
井出さんのピアノはどっしりとした落ち着きがあり、厭世的ではなく、かといって天国的とも違う世界を描いていました。ここで描かれたのはシューベルトの温かな笑みではあるまいか。
そんなことを感じながら、最後まで音楽に身を任せました。

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