C・クライバー指揮バイエルン国立歌劇場・他の演奏で、ヴェルディの「ラ・トラヴィアータ」を聴く(1976年5月,1977年6月、ミュンヘンでの録音)。
発売当初から評価の高いディスクである。
この時期のクライバーの音楽は、覇気に満ち満ちていて、歯切れがよく、劇的でもあった。レコード・デビューはシンフォニーだったが、どちらかと言えばオペラのほうがより得意だったろう。レパートリーは少なくなかったと聞いているけど、正規に録音された作品は数少なく、これはその貴重なもののひとつ。
このディスクでは、もちろん、その彼のイキのいい音楽が大きな魅力。前奏曲から、だんだんとアクセルを踏みこんでいって、やがて瞬間的に泡立つように爆発するところなどは、彼ならではの演出。全体を通して速めのテンポ、しなやかでいて、それでいてキビキビしていて、リズム感も抜群、聴いていてじっとしていられない。こんな演奏は、なかなか他には見当たらないと思う。
でもそんな素晴らしいオーケストラと同じくらい、このディスクでなにがもっとも好きかというと、コトルバシュのヴィオレッタ。声がなんとも可憐で、それに加えて、いかにも幸薄そうな、弱々しいところがなんとも魅力的なのだ。アリア「不思議だわ! ああ,たぶんあの方だわ」、それに続く「ばか!それこそはかない戯言!」は、なんて繊細なことでしょう。いうなれば肺結核的歌唱。
カラスやサザーランドのような、ドラマティックで風格があって、艶もたっぷりあるヴィオレッタとは、いささか毛色が異なるものの、これも落とせない、というか好み。
ミルンズのジェルモンは声がなめらか。いかにも酸いも甘いも知り尽くした大人といった歌いぶりで、存在感を放っている。
ドミンゴのアルフレートは、若々しい。録音当時、30代半ばである。やや硬質な声でもって、音楽に対し直線的に切り込んでいる感じが清々しい。
合唱もいい。
イレアーナ・コトルバシュ(S:ヴィオレッタ)
プラシド・ドミンゴ(T:アルフレード)
シェリル・ミルンズ(Br:ジェルモン)
ステファニア・マラグー(Ms:フローラ)、他
バイエルン国立歌劇場合唱団
パースのビッグムーン。
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