アラウのピアノで、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ31番を聴く(1965年10月の録音)。
ベートーヴェンがこの曲を作ったのは、1821年から22年にかけてとされている。今の私の歳と同じくらい。比較したって、まったくもって意味はないのだけれど(笑)。
いわゆる後期三大ソナタは、この時期にまとめて作曲されて、それ以降、5年くらいの余生を残すベートーヴェンは、とうとうピアノ・ソナタというジャンルを手掛けなかった。
その最後の期間、彼は未曾有ともいえる後期の弦楽四重奏曲群を創造している。そのスゴさについては、ここでは語らない。
いずれにしても、この31番のピアノ・ソナタはベートーヴェンが書いた最上級の音楽のひとつであることは疑えない。崇高で、限りなく優しい。聴いていて涙を禁じえない。
アラウは60歳を少し過ぎた頃であるが、まさに脂がのりきっているという感じ。彼のキャリアは、その後、まだまだ長いわけだけど。
冒頭は悠揚迫らざるテンポ。じっくりと弾いている。ひとつひとつの音を、じつに丹念に。無骨ではあるものの、聴いていて心に沁みないわけにいかない。
デュナーミクとルバートのきかせかたが絶妙で、腑に落ちる。タッチも素晴らしく、特に高音の輝かしい音色は、とても鮮やか。
2楽章も骨太。ちょっとやそっとの嵐ではなびかない、重心の低いピアノ。
3楽章のアダージョ部分は、荘重、かつテンポの揺らぎのような少しの遊びを取り入れているのが面白い。
フーガに入ると、色調がぐっと多彩になる。明るい色調だったり、影を差していたり。音色は、触れたらほろほろとくずれるようで、なんとも愛らしい。
最後は、すべての音が一丸となって、壮麗に締めくくられる。
パースのビッグムーン。
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