ワーグナー「ワルキューレ」第1幕 トスカニーニ指揮NBC交響楽団、他養老猛司、池田清彦、吉岡忍の「バカにならない読書術」を読む。
科学、ミステリー、漫画、写真、哲学、等々について三人でウンチクを語る。
読みどころは多いけれど、なかでもこれが印象的。
『大正10年当時、東京市長だった後藤が、水道水の塩素による殺菌を始めて以後、女性の平均年齢が延びたとある』。
後藤新平である。この政策が、大正10年11月に始まった女性の平均寿命の延びとピタリ重なるという。
『女性の寿命が延びたのは医療のせいじゃなくて、公衆衛生だったんだ』。
なるほど、こういう根拠があったのだな。
池田清彦、最近もっとも注目の評論家なのだ。
先日、テレビのバラエティー番組に出ていたのを観たけれど、雰囲気が蛭子能収ソックリなのだった。それも、いいなあと思った。
トスカニーニのワーグナー、このCDの聴きどころは、ふたりの歌手とオーケストラ。『その3組しか出ていないのだから当たり前じゃないか』と言われれば、その通りなのだが、それぞれが実にイキイキと気合い十分に役割を果たしている。なんというか、圧倒的にキャラクターが立っているのである。聴き応え満点。
『冬の嵐が去り』でのメルヒオールの雄弁さ。匂い立つような男の色気が充満している。なんとも息遣いが生々しい。
『あなたこそは春』における、トローベルの艶やかさ、万全の安定感。
この二人の歌手、昔の野菜の香りがする。形はキッチリとはそろっていないけれども、野性の風味が濃く匂いたつのだ。生命の匂いがぷんぷんとするのである。
ディテイルはわりとおおまかではあるけれど、おおらかで生き生きとした息遣いがそれを補って余りあるというか、圧倒的な説得力をもって聴き手に迫ってくる。
NBC響もいい。緻密な弦に加えて、金管、ことにトランペット、ホルンが秀逸。軽やかにして幽玄な弱音がたまらない。
なんという丁寧さ。古い録音ではあるけれども、眼前で演奏されているようにリアル。ことに弱音がいい。小さい音でありながら、しっかりと地を踏みしめるような着実な存在感がある。
オケは雄弁でありながら、終始脇役に徹している。トスカニーニの指揮だから、実は周到に計算されているのだろうけれど、なんとも細やかな黒子を演じている。これは技だ。
ジークムント:ラウリッツ・メルヒオール(T)
ジークリンデ:ヘレン・トローベル(S)
トスカニーニ指揮NBC交響楽団
1941年2月22日、ニューヨーク、カーネギーホールでの録音。
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