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マゼールのプッチーニ「マノン・レスコー」

2009.01.31 - プッチーニ
puccini

プッチーニ オペラ集


この曲を聴くのは初めて。
マゼールの指揮なので、きっと面白く聴かせてくれるだろうと思っていたが、案の定、冒頭から引き込まれる。
初めて聴く曲だから、演奏のどこがどういいのかを相対的に言い当てることはできかねるが、まず雰囲気がいいことがわかる。
同じCBSの音源だからなのか、ウイーンでの『トゥーランドット』と録音の感じがとてもよく似ている。
少し靄のかかったような、しっとりと潤いのある音なのだ。響きそのものが浮き世離れしているというか、たっぷりとした幻想味に溢れていて、退廃的ですらある。虚々実々のお話し、そしてメランコリックな音楽。
まったく理屈ではない、伝統的世俗さを貫いた潔さ。

物語を一言で言えば、ある女が男と駆け落ちしようとしているところを捕らえられ、アメリカに売り飛ばされて絶望して死んでしまう、といった話である。
オペラの台本というものは、くだらないものが少なくない。原作とは似て非なるものに仕上がっている。大事なディテイルを省略して、音楽の流れを重視したつくりに変えているのだ。
だから、音楽を抜きにして、台本だけを読むとまったくつまらない。台本は音楽のツマに過ぎないことを、高らかに宣言しているのであり、逆に話がシンプルでないと音楽が映えないのだろう。

なんてヨタ話を書いているうちに、音楽はどんどん進んでゆく。
マノンのニーナ・ラウティオの歌は、豊かな感情に溢れている。すごい美声というわけではないものの、じっとり瞳が濡れるような悲しみを漂わせている。『ディア・ハンター』の映像を想起させずにはいられないのである。
ドヴォルスキーのとっぽくて弱々しい歌いぶりも捨てがたい。こうした話ではいつも男はマヌケに見えてしまうものだが、ここでも、そうした慣習を裏切らない。うまければうまいほどマヌケに拍車がかかるように思えるのだ。これも歌手の技量だ。
といいつつ、この演奏の主役はマゼール。歌手と一糸乱れぬアンサンブルは、目立たないけれど高度な技を駆使したファインプレー。聴いていてまったく不安を感じさせないし、自然にそしてクールに盛り上げるところ、名人芸である。
オケだけで奏される場面で印象的なのは、3幕の間奏曲。べったりこってりした甘さは、ハリウッド音楽を思わせる。マックス・スタイナーも顔負けかも。このオペラのひとつのハイライトシーンだろう。

このプッチーニのオペラ集、『トスカ』とこの『マノン・レスコー』しか聴いていないが、すでに元はとれた感じ。
続きはまたいつか。

マノン:ニーナ・ラウティオ(S)
レスコー:ジーノ・キリコ(Br)
デ・グリュー:ペーター・ドヴォルスキー(T)
ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団
ロリン・マゼール(指揮)

1992年2月、ミラノでの録音。

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Comment

無題 - rudolf2006

吉田さま こんばんは

プッチーニ・ボックスからですね
「マノン・レスコー」昔、テ・カナワさんが主役を歌っている舞台の録画を持っていたと思います。2幕の舞台姿が美しかったことしか覚えていません、爆〜。

作曲家は、オペラのリブレットには相当文句を付けるようですね〜。ヴェルディもしかり、R・シュトラウスもしかり、プッチーニもしかし、ヴァーグナーもですね〜。

でも、やはり音楽の力でこれまで生き残ってきているんでしょうね〜。ヴェルディのシェイクスピアものは、台本が優れていると言われていますが〜。

このボックス、私も買っていましたので、1幕から聴きだし、2幕の途中です。ミラノ・スカラ座のオケストラ、上手いですよね〜。確かに主役よりもオケストラの方が雄弁な感じがしますね〜。こういうのは、イタリアものでは珍しいような〜。

マゼールはどんな曲でも面白く聴かせてくれますよね、そういえば、大物指揮者でありながら、バイロイトには出ていませんよね〜。どうしてなのかな、とふと思ってしまいました〜。

ミ(`w´彡)
2009.01.31 Sat 17:26 URL [ Edit ]

Re:rudolf2006さん、おはようございます - 管理人:芳野達司

コメントありがとうございます。

プッチーニ・ボックス、できれば今年中に全部聴きたいと思います。
まだ3組目なのでいつ挫折するかわかりませんが…。
多くの巨匠作曲家がリブレットに文句を付けていますね。それを元に作曲するのだから、口を出さずにはいられないところ、理解できます。

そうそう、この曲ではミラノ・スカラ座がいいですよね。いい響きを出しています。歌手も悪くないのですけど、オケが目立つような。マゼールの才気が溢れた演奏です。
確かに、バイロイトに出ていませんね。若い頃はベルリンでオペラをやっていたのに…意外です。確かに彼のワーグナーは少ないですが、どうしてでしょう。
2009.02.01 09:40
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