プッチーニ オペラ集この曲を聴くのは初めて。
マゼールの指揮なので、きっと面白く聴かせてくれるだろうと思っていたが、案の定、冒頭から引き込まれる。
初めて聴く曲だから、演奏のどこがどういいのかを相対的に言い当てることはできかねるが、まず雰囲気がいいことがわかる。
同じCBSの音源だからなのか、ウイーンでの『トゥーランドット』と録音の感じがとてもよく似ている。
少し靄のかかったような、しっとりと潤いのある音なのだ。響きそのものが浮き世離れしているというか、たっぷりとした幻想味に溢れていて、退廃的ですらある。虚々実々のお話し、そしてメランコリックな音楽。
まったく理屈ではない、伝統的世俗さを貫いた潔さ。
物語を一言で言えば、ある女が男と駆け落ちしようとしているところを捕らえられ、アメリカに売り飛ばされて絶望して死んでしまう、といった話である。
オペラの台本というものは、くだらないものが少なくない。原作とは似て非なるものに仕上がっている。大事なディテイルを省略して、音楽の流れを重視したつくりに変えているのだ。
だから、音楽を抜きにして、台本だけを読むとまったくつまらない。台本は音楽のツマに過ぎないことを、高らかに宣言しているのであり、逆に話がシンプルでないと音楽が映えないのだろう。
なんてヨタ話を書いているうちに、音楽はどんどん進んでゆく。
マノンのニーナ・ラウティオの歌は、豊かな感情に溢れている。すごい美声というわけではないものの、じっとり瞳が濡れるような悲しみを漂わせている。『ディア・ハンター』の映像を想起させずにはいられないのである。
ドヴォルスキーのとっぽくて弱々しい歌いぶりも捨てがたい。こうした話ではいつも男はマヌケに見えてしまうものだが、ここでも、そうした慣習を裏切らない。うまければうまいほどマヌケに拍車がかかるように思えるのだ。これも歌手の技量だ。
といいつつ、この演奏の主役はマゼール。歌手と一糸乱れぬアンサンブルは、目立たないけれど高度な技を駆使したファインプレー。聴いていてまったく不安を感じさせないし、自然にそしてクールに盛り上げるところ、名人芸である。
オケだけで奏される場面で印象的なのは、3幕の間奏曲。べったりこってりした甘さは、ハリウッド音楽を思わせる。マックス・スタイナーも顔負けかも。このオペラのひとつのハイライトシーンだろう。
このプッチーニのオペラ集、『トスカ』とこの『マノン・レスコー』しか聴いていないが、すでに元はとれた感じ。
続きはまたいつか。
マノン:ニーナ・ラウティオ(S)
レスコー:ジーノ・キリコ(Br)
デ・グリュー:ペーター・ドヴォルスキー(T)
ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団
ロリン・マゼール(指揮)
1992年2月、ミラノでの録音。
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