忍者ブログ

グリュミオーとべイヌムのブラームス「ヴァイオリン協奏曲」

2009.02.01 - ブラームス
brahms

ブラームス「ヴァイオリン協奏曲」 グリュミオー(Vn)ベイヌム指揮コンセルトヘボウ管弦楽団


村上春樹と柴田元幸の「翻訳夜話」を読む。
前からうすぼんやり思っていたことが、これを読んで、確信に近い手ごたえを感じた。
「作品の持つ雰囲気をとらえるために、作家の背景ですとかを調べることがありますか」。
「それには二つの考え方があると思います。一つは、テキストがいちばん大事であるということ。テキストのみを読みこむことによって、その作家像とかいろんなものを自分の想像力のなかで再構築していく。もう一つは実際的な調査を行って、この作家はこういう人で、こういう人生を送って、というようなバックグラウンドを頭に入れて、それでこの作品のトーンを考証的に割り出していく。両方の方法があるし、僕はどっちでもいいと思うんですよ」。
そう、著作の翻訳と、音楽の演奏は似ている。
結局は結果がすべてとはいえ、そのやりかたはまったく異なるところも。
ある演奏家が、いつもどういった過程を経て演奏しているか、聴いただけでは知りようがないのだけれども、どういう経緯でこういう演奏になったのか、ときには、強く知りたいと思うのだ。

グリュミオーとベイヌムのブラームスを聴く。
グリュミオーの折り目正しい端正な弾きっぷりと、濃厚なコクのあるオーケストラがよく合う。
この曲はしばしばオケが重くなりがちだが、ここでの足取りはなかなか軽やかだ。コクはあるけど重くない。
べイヌムの軽快なタッチが冴えている。
グリュミオーの丁寧なヴァイオリンは、さほどスケールが大きいものではないものの、そのぶんピリッと小回りがきいた、スマートなものなので、録音された58年当時はなかなかモダンに聴こえたことだろう。
難曲なのに苦労を感じさせないうまさ。
2楽章のオーボエコンチェルトがなんともいい。線が細くて輪郭のはっきりしたオーボエで、なにか、とても懐かしいものを運んできてくれた感覚。毅然とした迷いない演奏。これは名人の手に拠るものに違いない。あっという間の8分41秒。
終楽章は、さらにオケが好調。羽毛のような弦、天空を舞うようなホルン。 申し分ない、というか、これ以上のものを思い出すのは難しいくらい。
カラヤンもクレンペラーもセルもヨッフムもジュリーニもドラティもライナーもよいけれど、軽やかさと細やかさでは、ベイヌムが鼻差で抜けているかも。なので、ヴァイオリンもよく鳴っているけれど、このオーケストラを前にしたら、グリュミオーもほんのちょっとだけ分が悪いように思える。

1958年7月の録音。

PR
   Comment(1)   TrackBack()    ▲ENTRY-TOP

Comment

無題 - rudolf2006

吉田さま お早うございます

作家であれ、作曲家であれ、その作品が醸し出す雰囲気、それと作家、ないしは作曲家の生活史とでも良いものとが、異なっている場合も多いですね〜。R・シュトラウスのように、生活(性格は別にしてですが)と作品とが重なり合い、しかも円満なもの、世俗的にも成功し、芸術としても成功している場合は非常にまれかもしれませんね〜。
私は、意外に、作品と生活史の乖離が激しい作家、作曲家に興味を覚えます。例えば、真っ先に挙がるのが、市川啄木ですが〜。

このCD、私も興味があり、注文しようか、少し悩んでそのままにしております。この時代のオランダは、ドイツ系というよりもフランスの影響が強いように思いますね〜。というか、イギリスもアメリカも、フランス系だった訳ですが〜。(今は完全にドイツ系に近くなってしまっていますが〜。)

激賞されているオーボエ、きっとフランス系ではないかと思います。といっても、ベルギー、オランででは微妙に異なるようですが〜。言語と管楽器の音の影響は強くあるようですね〜。

ベイヌムの演奏、若い頃フィリップスの1000円盤でお世話になりました。懐かしいですね〜、久し振りに聴いてみたくなりました〜。

ミ(`w´彡)
2009.02.02 Mon 08:03 URL [ Edit ]

Re:rudolf2006さん、おはようございます。 - 管理人:芳野達司

コメントありがとうございます。
生活と作品との関係は面白いものです。まったく異なる場合もあるし、似たようなものもあるようです。
シュトラウスなどは後者なのでしょう。ブラームスもあまり乖離は感じません。啄木はぜんぜん違うといいますね。
ギャップが少ないほうが、ジンセイ楽なように思います。

フランス系のオーボエですかね、軽やかな音がなんとも心地よいものがあります。この曲にはこうした響きがあっているように思います。
なおCD、協奏曲の演奏もいいものですが、カプリングの「大学祝典序曲」がめっぽうすばらしいもので、これは同曲のトップクラスなのじゃないかと思います。
2009.02.03 12:46
コメントタイトル:
投稿者名:
Mail:
URL:
投稿内容:
Password: ※1
Secret: 管理者にだけ表示を許可する※2
※1 パスワードを設定するとご自分が投稿した記事を編集することができます。
※2 チェックを入れると管理者のみが見ることのできるメッセージが送れます。

TrackBack

この記事へのトラックバック
TrackBackURL
  →
カレンダー
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
ポチっとお願いします(´_`\)  ↓ ↓ ↓
最新コメント
カッチェン、フロマン、ブラームス"ピアノ協奏曲2番" from:Yoshimi
-11/16(Thu) -
フルニエ、フィルクスニー、ブラームス"1番" from:老究の散策クラシック限定篇
-03/18(Sat) -
ゼルキン、オーマンディ、ブラームス"1番" from:老究の散策クラシック限定篇
-02/20(Mon) -
ゼルキン、オーマンディ、ブラームス"1番" from:“スケルツォ倶楽部”発起人
-02/20(Mon) -
古典四重奏団、ベートーヴェン、15,13"大フーガ" from:老究の散策クラシック限定篇
-10/30(Sun) -
最新TB
カテゴリー