チャイコフスキー 三大バレエ レナード・スラットキン指揮セントルイス交響楽団中島義道の「狂人一歩手前」を読む。
オビには『中島節炸裂の爆弾本』とある。確かにいつもの中島であるが、月刊誌に連載したものらしく、いくぶん軽快でリラックスしたものだ。
激しく反社会的な内容は、いままで書いてきたものの繰り返しに過ぎない。どこかのオジサンが同じ話を何度も繰り返すような趣があって、微笑ましい。
『生きていく理由はないと思う。いかに懸命に生きても、いずれ死んでしまうのだから』。そうなると生きてゆく糧を見つけるのが難しいわけだけど、だからといって死ぬのはイカン、わけ。そして著者は『グレる』道を選ぶことになるのだけど、グレかたがどことなくユーモラスで笑える。
中島本を久々に読んだが、特に違和感はなかった。病気なのか健全なのか。
スラットキンのチャイコフスキー第3弾。
イントロのあとの1幕最初のシーンで、この演奏の質の高さがわかる。すばらしいスピード感と眼前に迫るような生々しい音。一気にチャイコフスキーの幻想世界に引き込まれる。
総じて、1幕はまるでおもちゃ箱をひっくり返したような、賑やかな音楽が立て続けに登場するわけだけど、危なげなく捌いてゆくセントルイスの技量は高い。ある楽器が特段に突出しているわけではなく、各パートが均等にうまい。そして音量のバランスもいい。
軽快な木管、歯切れのいいブラス。強いて言えば、弦が最もいいかもしれない。艶があって、密度の濃い音が全体とよく溶け合っており、オケ全体のカラーを強く方向づけている。色彩たっぷりな響きが豪華なもので、チャイコのバレエはこうでなきゃ、といった感じ。この曲をひたすら禁欲的にやっても、あまり面白くないものね。
2幕以降になると、音楽の陰影はより増してゆくが、スラットキンの棒は依然として安定している。
きっちりと我慢強くリズムを刻んで、均整のとれたフォームを築いてゆく。全体がスッキリと見通すことができる。もうほんの少しだけ、仄めかしの味わいがあったらと感じるのは欲張りすぎだろう。
残響はたっぷりなものの、全体にドライな録音なのことが影響しているのかもしれない。
これで、スラットキンの三大バレエは全曲聴いてきたわけだけど、最後に収録された(ライナーには録音日の記載がないのだが、3番目に収録されていたので最後でもいいかなと)『白鳥の湖』は、総決算と言うべきもの。すみずみまで目の行き届いた充実の演奏である。
全部通して49曲、2時間17分。よくもこれだけ楽しくて聴き応えのある曲を大量にこしらえたものだ。
冗談抜きで凄すぎるチャイコフスキー。
異論を承知で言ってしまえば、バッハとヘンデルに並ぶべき、19世紀を代表するメロディーメーカーは、チャイコフスキーを置いて他にいないな。
PR