エドガー・アラン・ポー(巽孝之訳)の「盗まれた手紙」を読む。
「ことの起こりは、まずわしが、さるやんごとなき方面からひとつのあまりに重大な文書が宮殿の部屋より盗まれたということを、個人的に知らされたことだ。盗んだのが誰か、それはもうわかっている。疑いの余地はない。」
トリックそのものは、目新しいものではない。
それは、本書がオリジナルだから。これに影響を受けてチェスタトンやドイルを始めとしたミステリー、あるいは最近よく出回っているプチ心理学本がのさばっているのだから。
名探偵・デュパンがトリックを解き明かす方法を基礎づけるためのレトリックがふるっている。すなわち「推理する人間の知性を推理される人間の知性と同一化させる方法」。それを丁半ゲームに例えるくだりは、読んでいて爽快。
デュパンに依頼した警視総監が注文通りにやりこめられるところは痛快。
ジュリーニ指揮スカラ座・フィルの演奏で、ベートーヴェンの交響曲5番を聴く
(1993年10月、ミラノ、アバネッラ劇場での録音)。
これは、ジュリーニ2回目のセッション録音。
1度目は1980年にロサンジェルス・フィルと収録したもので、当時、吉田秀和が、イタリア人の指揮者がアメリカのオーケストラを振ってこんな重厚な演奏になるとは、というようなことを言って評判になった。
彼はこのスカラとの録音については何か言ったのかな。
さてこの録音、いわゆる「運命」のモティーフをレガートで演奏するところは、前回と同じ。オーケストラの響きはとくに弦楽器がロサンジェルスに比べてやや重い。そのぶん、まろやかになっているとは言える。
ジュリーニのこの一連のベートーヴェン録音は、指揮者の手腕もさることながら、スカラ座のオーケストラがベートーヴェンの交響曲を演奏するという珍しさにも価値がある。こうしてじっくり聴くと、全体的にヴェールを被ったような色調と、弦楽器の厚みが印象的。そのあたりはアメリカではなく、イギリスでもない、ヨーロッパ大陸のこれは音なのだと、しみじみ感じる。
演奏時間は前回よりも少し短くなっている(34分38秒)が、これは4楽章の反復を省略したためで、体感的には同じくらいの速度。
春。
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