レナード・バーンスタイン指揮 ニューヨーク・フィルリヒャルト・ヴァーグナー(高木卓訳)の「ベートーヴェンまいり」を読む。
これはワーグナーが書いた小説。彼が多くの評論を書いていたことは知っていたが、これは初めて読んだ。
ベートーヴェンに憧れを抱くワーグナーが、徒歩でライプツィヒからウイーンまで、はるばる会いに行く。旅の途中に出会ったイギリス人に邪魔をされながらも、とうとうベートーヴェンに面会する。新作は「合唱入りのシンフォニー」であることを聞いたワーグナーは感動にうち震える、というお話。
「第九」が完成したのが1824年頃であるから、ときにワーグナーは10歳か11歳。この小説では、旅行のために「ガロップ」を作曲して資金を稼いだとのくだりや旅の途中の会話から少なくとも十代後半の設定になっているので、妄想、いやフィクションであると考えていいだろう。
後に傲慢だの唯我独尊だの人間失格だのと言われるワーグナーだが、ここでは音楽に対する純粋とも言える情熱が、なんともみずみずしいのだ。
バーンスタイン・シンフォニー・エディションに収録されているベートーヴェンの交響曲をようやく全部聴いた。聴く前のぼんやりした予想以上に水準の高いものであった。「田園」だけはいまひとつだったものの、あとはどれも甲乙つけがたく素晴らしい。ひとことで言ってしまえば、才気煥発。そのなかでどれを書くか、年末だから第九ということで。
1楽章、2楽章と気合いが入っており、緊張感が高い。ティンパニが力強い。たまに変化球をおりまぜるあたり、バーンスタイン特有の見栄も利かせているが、一気呵成の推進力のほうが強いので、違和感は感じない。3楽章の、生命がはち切れんばかりの躍動感もすばらしい。
惜しいのは、終楽章の男声歌手がやや弱いところ。ただ、けっしてダメなわけではなく、オーケストラのイキがあまりに良いのに比べたら、というくらい。贅沢な注文だ。合唱はなかなか。
ラストはピッコロがいい味で大団円を演出している。
バーンスタインの第九は、ウイーン・フィルとのものと、例のヨーロッパオケ合同のものを聴いたことがあるけれど、ニューヨークとのものが最も溌剌としてよいのではないかと思う(最近こればっかりだナ)。
マーティナ・アーロヨ(S)
レジーナ・サーファティ(Ms)
ニコラス・ディ・ヴィルジリオ(T)
ノーマン・スコット(Bs)
ジュリアード合唱団
1964年5月、ニューヨーク、マンハッタン・センターでの録音。
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バーンスタインがウイーン・フィルを振ったベートーヴェン全集が出た時は、LPの後期だったかと記憶します。レコード屋でみかけては憧れの目で見ていました。それから何年かして、ポツポツとCDで廉価盤が出始めて、ようやっとほぼ全部聴いたかな、といったところです。
発売当初は、福永陽一郎が「これほどレベルの高いベートーヴェン全集を作ることは、C・クライバーがやったとしても難しいだろう」というような発言をしていて、それを強烈に覚えています。
ウイーン盤でいま手元にあるのは5,7のみになってしまいました。なので9番の印象はあまり濃くはないのです・・・。ですが、「総合的に見ると、ニューヨーク・フィル盤はウィーン・フィル盤にまったく引けをとっていません」、のご意見には、同感でございます。