ジュリーニ指揮スカラ・フィルの演奏で、ベートーヴェンの交響曲8番を聴く。
彼はこの曲を70年代にロンドン・フィルと録音していて、記憶が確かならば、これが2回目のセッション録音であるはず。
ロンドン・フィルとの演奏は、この曲にありがちな、いたずらにリズムを強調する類のものではなく、彼らしい柔らかでしなやかなフレージングを随所に聴くことができるもので、好きな演奏である。
さて、このスカラ・フィルとのものはどうか。
出だし、ティンパニと弦楽器がピッタリと合っていて気持ちがいい。爽快な演奏を予想させたが、そうでもあり、またその他にもメニューの豊富なご馳走だった。
そして、歯切れのいいところと、レガートで押していくところとが、場面によってすみ分けされていて、ニュアンスが豊か。じつに考え抜かれたと思わされる演奏。
オーケストラは、まず木管楽器が雄弁。ファゴット、クラリネット、フルート、自然で明快、滑舌がいい。
弦楽器はけっこう熱い。1楽章や終楽章では、チェロとコントラバス、あるいはヴァイオリンが軋みをあげている。まるで白熱のライヴ演奏のような様相。終楽章で、ヴァイオリンがわずかにかけるポルタメントがお洒落。
テンポは全体的に中くらい。トータル・タイムは27分と少し。この時期のジュリーニにしては、遅くない。
晴朗な野花の香りの交響楽、である。
1992年9月、ミラノ、アバネッラ劇場での録音。
春。
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