「バッハは生前に「マタイ受難曲」を1727,1729,1736,1742年と4回演奏したことが知られているが、ふだん我々が耳にしているのは「1736年」に改訂されたバージョンである。ならば「1727年」の初演時はどんな姿だったのだろうか」
それはわかっていなかったのだが、今回バッハ研究家の江端伸昭と加藤拓未が1727年稿の復元に挑戦した。
聴いて、観てわかる変更点はふたつ。
アンサンブルが二重の合唱・オーケストラではなく、単体であること。
もうひとつ、冒頭が違う。通常は前半の最高尾に置かれる「おお人よ、汝の罪の多いなるを嘆け」を出だしに持ってきている。なので、いつもの序奏部分はカットされている。
演奏前に、ショホは体調が悪いためそこを鑑みて聴くように、というようなアナウンスがあったが、彼は無難にこの大曲をしのいだ。声が十全に出ないからであろう、全体的に早口な福音史家ではあった。でも、堂々たるもの。
それ以上に特筆すべきは、イエスをやった小藤洋平。声の押し出しの若々しさ、しなやかさに強さ、そして立ち居ぶるまいの立派さ。聴覚的にも視覚的にも、世界のどこに出しても通用するイエスであった。
歌手は誰もが水準以上の質を保っていて、安心して聴いていられた。なかでは、バスの青木海斗が素晴らしい。風貌は若いものの、人生の甘さ酸っぱさを知り尽くしたような、貫禄のある歌を聴かせてくれた。
弦楽器は、ヴァイオリンが5つ、ヴィオラ・チェロ・ヴィオーネが各ひとつという古楽編成。量は少ないけれども、厚みのある演奏を聴かせてくれた。
合唱は、女声が39名、男声が15名。1部は少し硬さを感じたが、2部ではほどよくブレンドしたまるやかな響きを堪能させてくれた。
指揮者の大塚直哉は、全体を通じて速めのテンポで押し切った。歯切れがよく、生き生きとしていた。古楽=速いというイメージは、味気なく感じがちだが、熱いパッションをも伴っていた。
「エリエリラマアサブタニ」以降は、感涙を止められなかった。
やはりマタイ、素晴らしかったです。
演奏時間は、1部が約60分、2部が87分。
福音史家 クヌート・ショホ
イエス・バス 小藤洋平
ソプラノ1 北村文美
ソプラノ2 中山美紀
アルト1 山下未紗
アルト2 寺嶋あゆみ
テノール 大野彰展
バス 青木海斗
管弦楽 コーヒーカップ・コンソート
合唱 原マタイ受難曲室内合唱団 (合唱指揮 吉田真康)
(2016年4月17日、東京、IMAホール)
春。
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