錦糸町楽天地シネマズにて、是枝裕和監督の「海よりもまだ深く」を観る。
これは、阿部寛が演じるギャンブル好きな売れない小説家が、ネタ集めのためと称した探偵業を生業としつつ、別れた妻子に未練を感じて、つきまとう話。
女優がいい。阿部の母親を樹木希林、実姉を小林聡美、元妻を真木よう子が演じているが、それぞれ圧倒的な存在感を放っている。うららかな東京郊外の空気のなかを、素敵な芳香を纏いながら姿を現している。
そのいっぽうで男優は、阿部を始めとして探偵会社の社長がリリー・フランキー、樹木の趣味友達が橋爪功、真木の交際相手が小澤征悦と個性豊かであるが、なんだか微妙なマヌケ感をもっている。どいつもこいつも、阿部と同じ人種だと、思わされるなにかがある。
そう云う意味で、仕事も含め、生活全般においての女性の強さを、じわじわと感じないわけにいかない映画である。
他人事ではない。
ジュリーニ指揮バイエルン放送交響楽団の演奏で、シューベルトの交響曲7番「未完成」を聴く(1995年4月、ミュンヘン、ヘラクレス・ザールでの録音)。
ジュリーニはこれまで、フィルハーモニア管弦楽団、シカゴ交響楽団と録音しているから、これが3回目のセッション録音のはず。決してレパートリーの広い指揮者ではないだけに、彼が好きな曲のひとつであろう。
1楽章を反復しているせいもあり、タイムは長い。
16:31、13:15。
でも、この時期のジュリーニとしては、長さを感じない。1楽章の第1主題を、ヴァイオリンがか細く鳴らせるのを聴くと、冬の空のように迷いのないテンポであるように感じないわけにいかない。
そのヴァイオリンを始めとして、各楽器は、実に慎重に注意深く音を鳴らせている。再現部でのチェロの幽玄な響きは圧巻であるし、ファゴットを始めとする木管群もなんとも云えぬ風雅な佇まい。
これほど穏やかにして高貴な1楽章を、今まで聴いたことがない。
ムラヴィンスキーやC・クライバー、ケルテスたちの激しさとは、また次元の違うものである。
2楽章も弦楽器は好調。精緻にして麗しい。バイエルンは、こんなにデリケートな音を出すオーケストラだったのか。
クーベリックの一連の録音で実力は知っていたものの、まさか、これほどまで洗練されていたとは。
ジュリーニの手腕であろう。
煩悩マンマンな自分を、優しく諌めてくれる演奏だ。
春。
PR