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カザドシュ、サン=サーンス"ピアノ協奏曲4番"

2015.04.04 - サン=サーンス





ロベール・カザドシュのピアノ、バーンスタイン指揮、ニューヨーク・フィルの演奏で、サン=サーンスのピアノ協奏曲4番を聴く。

中学生の頃、クラシック音楽の指標のひとつとなったのは、吉田秀和の「LP300選」だった。これは本当に何度も何度も、ボロボロになるまで読み返した。そのボロボロは、今も手元になる。
彼の影響は甚大で、褒めるものは積極的に聴こうとしたし、その逆に対しては黙殺した。そのひとつが、サン=サーンスである。
彼はこう書いている。

「私は、この人の器楽は、もうやりきれない気がする。一体、これは本当の芸術家の仕事なのだろうか。彼の旋律-有名な『交響曲第三番』『ヴァイオリン協奏曲第三番』『ピアノ協奏曲』第二、四、五番などの主題をきいてみたまえ。なんという安っぽさ、俗っぽさだろう! そのうえ、あとに出てくる発展は、もう常套手段ばかり」。


だが、このブログを始めてから、仲間たちの記事を拝見すると、この作曲家についていいことが書いてある。なかなか魅力的に思えた。それでここ10年くらいやっと、サン=サーンスを聴き始めた。
そして、彼の、特に室内楽曲をとても気に入った。とりわけ、オーボエ・ソナタや七重奏曲は抱いて寝たい、とまではいかないけど、そのディスクはずっと手元に置いておきたい。

そういうわけで、サン=サーンスのピアノ協奏曲のまだ初心者である。
リヒテルがまだ元気な頃、FMで5番の演奏を聴いたことがある。いい曲のような気はしたが、それ以降積極的に聴こうとは思わなかった。
コラールの全集を買ったのは3年ほど前。ようやく、ピアノ協奏曲の全貌とまではいかないまでも、一端をとらえることができた。

コラールの音は硬いから(録音の加減もあるかもしれない)、情緒だけに溺れることなく、明晰な音が目の前に繰り広げられた。
このカザドシュもフランス人。録音年代はコラールに比べて古いけれど、生々しい音を出している。押したらすぐ返されるような、弾力のある音。潤いに満ちていて、かつダイナミックに溢れている。
が、この演奏では、オーケストラの出来の良さを抜きにして語れない。どの楽器もじつに雄弁。それはうるさくなく隠れもしない、いい按配の鳴りかたなのである。フォルテッシモの場面でも音が塊にならず、ひとつひとつの楽器がほぐれるように、あたかも小さな生き物のような温かみをもって響いている。

曲もなかなかいい。ただ、2楽章でピアノが奏する旋律(開始後1分くらい)はとても魅力的でありつつも、唐突感は否めない。メロディーはいいのに、前後の連携がいまひとつの感がある。構造上の問題だろうか。しかしラストは、華麗にカッコよく締めくくられる。

たまには聴きたい曲だ。ピアノが登場するコンサートと言えば、チャイコフスキーの1番やらラフマニノフの2番、シューマンあるいはショパンばかりだが、そのうちのせめて2割くらいは、この曲に譲ってもいいのではないだろうか。


1961年10月、ニューヨーク、マンハッタン・センターでの録音。






ma


森。










「ぶらあぼ」4月号に掲載されました!










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Comment

無題 - リベラ33

4番は大好きな作品です。高校生のころに偶然ラジオで聴いて、すぐに全集を買いました。サン=サーンスは主題の展開が弱いなどと言われますが、展開のすごさだけで作品を語らなければならない訳では無いと私は思います。主題展開が得意ならそこで勝負すればいいし、これが苦手というなら別の切り口で戦うまでではないでしょうか。
別件バウアーですが、ドラゴンズ強いですね。
2015.04.05 Sun 10:23 URL [ Edit ]

やっと気づきました。 - 管理人:芳野達司

リベラ33さん、こんにちは。
メロディーがなんともチャーミングです。それとフランスのエスプリとでもいうのでしょうか、高揚するような雰囲気があります。

>主題展開が得意ならそこで勝負すればいいし、これが苦手というなら別の切り口で戦うまでではないでしょうか。
卓見ですね。なるほど、いろいろな作曲家がいますからそれぞれ得手不得手は程度の大小こそあれなにかしらあるのでしょう。

今年のドラゴンズは先発陣がいいので、優勝を期待できると思います。吉見、大野、山井、バルデス、八木、それと浜田が復活したらリーグ№1ではないかと。
野球評論家たちをギャフンと言わせたい。
2015.04.05 21:25

無題 - リベラ33

優勝したら一杯やりましょう。
2015.04.05 Sun 21:45 URL [ Edit ]

うふふ。 - 管理人:芳野達司

やりましょう、やりましょう。
2015.04.05 22:05

”安っぽく、俗っぽい”のかもしれませんが - yoshimi

こんにちは。
サン=サーンスが書いた旋律はわかりやすいのでメロディメーカーですね。
それに、曲の盛り上げ方が上手くてドラマティックですから、吉田氏が”安っぽさ、俗っぽさ”を感じたのは何となくわかります。

サン=サーンスの作品は、ピアノ協奏曲に限らず、聴いた後では曲をなかなか思い出せないのですが、聴いている最中はとっても楽しめます。
ピアノ作品以外なら、ヴァイオリンソナタ第1番が好きな曲です。

ピアノ協奏協全集は、パスカル・ロジェとスティーヴン・ハフで聴きました。
第4番は第2番と同じく好きな曲です。
技巧的に難しくピアニスティックな曲なので、誰もが卒なく弾きこなせるという曲集ではないようです。

久しぶりに聴きましたが、第1楽章の冒頭主題は、ひそひそ内緒話みたいで、何か起こりそうな予感がして、だんだん盛り上がっていくところがドラマティックでスリリングです。
第2楽章の冒頭主題と、楽しいピクニックみたいな第2主題とは、曲想が全然違ってますし、第1楽章の主題が登場して変奏曲になってますから、統一感があまりなくて、コラージュみたいな曲です。
モチーフが多彩で目まぐるしく変わっていくところは、さすが職人芸的な変奏曲というところでしょうか。
2015.04.06 Mon 21:14 URL [ Edit ]

世の中の奥深さを思い知りました。 - 管理人:芳野達司

yoshimiさん、こんにちは。
中学生から高校生の頃まで、吉田秀和の「LP300選」を脇に抱えて歩いていました。なので、彼の意見を鵜呑みにしていました。当時は、クラシック音楽の批評家に対して批判とか反論するというような考えを全く持っていなかった。なので、具体的には、作曲家ではサン=サーンスやグリーグ、演奏家ではオーマンディやフランソワ、といったところを度外視し、積極的に聴くことはなかったのです。今思えば、もったいなかったなあと。誰がなにを言おうと、取りあえずは自分が聴いて評価する、という姿勢がなかったのです。経済的にも。
そんなわけで、サン=サーンスのピアノ協奏曲は最近になって聴き始めました。メロディーがとてもいい。ドイツでもなくロシアでもない、たぶん、ブラインドで聴いてもフランスとわかるような旋律です。

ヴァイオリンソナタ第1番。ふむふむ。
チェックしました。機会があれば優先して聴きます。
2015.04.06 21:26
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