ヴェルディ「レクイエム」 トスカニーニ指揮NBC交響楽団、他今まで好んで聴いてきたヴェルディのレクイエムは、カラヤンとベルリンの新盤、アバドとスカラ座、それからジュリーニとフィルハーモニアのもの。なかでも、ジュリーニの演奏はLPからCDにかけて聴いてきた思い入れ深い録音だ。息のたっぷりとした明快なカンタービレと、若々しい情熱の迸りがなんともステキなのだ。
『ディエス・イレ』の咆哮で音がひび割れるところはCD化されてもたいして改善されていなくて、そうしたところさえもいとおしく感じるのだった。
そんなわけで長らくジュリーニ盤がマイベストだったわけなんだけど、トスカニーニを聴いて、それが少し揺らぎかけている。
「何だよいまさら」なんて言われそうだけど、初めて聴くのだから仕方がない。イヤ、これはマイッタ。
冒頭から尋常ではない気迫だ。そっと立ち上ぼってゆくヴァイオリンのなんとつややかなことか。古い録音だから、バサバサとした雑音の中から立ち上がって来るのだけど、ヴァイオリンにあたかも後光がさしているかのように、光っている。
『ディエス・イレ』の迫力たるや、なんてことだろう。このくらいやってこそ神の怒りということか。合唱はもちろん音が割れまくっているが、どうしたことか大太鼓は妙に鮮明。皮の軋むところまで捉えている。手加減なしで心臓を貫くような一撃で、これはショックだ。
『ラッパがなりて』では、大音量の奥から、トスカニーニらしき人物の怒号が聞える。録音当時83歳、ヤル気まんまんだ。
歌手もいい。みんな持ち味を発揮しているというか、伸び伸びと思い切りよく歌い上げている。
ステファノは甘さたっぷりで輝かしい。『キリエ』では、張り切りすぎて声がうらがえりそうになっているところは愛嬌。
シエピは岩山のような逞しさをみせて、つけいるスキなし。
ネルリとバルビエーリの見せ場は、『アニュス・ディ』、ふたりの粒のたった声がはっきりと聞き分けられ、こんなに声質が違うのに一体感があるのが不思議に思える。
全体を通して、NBC響の勢いが素晴らしい。アンサンブルは完璧ではないものの、推進力に圧倒される。
ヘルヴァ・ネルリ(S)
フェードラ・バルビエーリ(MS)
ジュゼッペ・ディ・ステファノ(T)
チェーザレ・シエピ(B)
ロバート・ショウ合唱団
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮
NBC交響楽団
1951年1月、ニューヨークでの録音。
PR