チャイコフスキー 三大バレエ レナード・スラットキン指揮セントルイス交響楽団スラットキンの「くるみ割り人形」を、CD発売当初に購入して愛聴していたのだが、当時の会社の友人に貸してそのままになっている。もう縁遠くなってしまったので返してもらう機会はないが、彼女の再婚祝いだと思えばそれでいいかなと思っている。
それにしても普段クラシック音楽を聴かない人に「全曲」を貸すのもどういうものなんだろうと、たまに思い出すのだが、それほど当時は自分にとってお気に入りが、スラットキンの「くるみ割り人形」なのだった。
そのころ、プレヴィンやドラティなど並居る強豪を抑えてスラットキン盤を選んだ理由のひとつは、出谷啓が強く勧めていたからだった。
この人はアメリカのオーケストラを贔屓にしていて、このスラットキンとセントルイスやオーマンディ・フィラデルフィア、ドラティ・デトロイトなんかを、当時としては(今もか?)異例なほど好んでいた反骨のヒトだった。その反骨ぶりが、けっこう浮いていて、「おいおいマジかよ」なんて思わせるところもあって、楽しい評論家だった。
選んだもうひとつの理由が、セントルイス交響楽団に対してのトピックだった。
この楽団がアメリカのベスト・ファイブの2位になったという情報だ。80年代のこと。ショルティのシカゴ交響楽団に続いて2位という快挙に、みんなが驚いたし、少なからぬ疑念をもったものだった。
それもそのはずで、今まであまり聞いたことのなかったオーケストラが、フィラデルフィアやクリーヴランドよりも上位にいたのだから。
でも実際、この頃のスラットキンとセントルイスのコンビは快調で、テラークやRCAからけっこう多くの録音をこなしていて、その評価も(全米2位という価値に見合うほどのものじゃなかったが)悪くなかったと記憶する。
そういうときに買ったのが「くるみ割り人形」だった。
それを十数年ぶりに聴いてみた。やはりいい演奏だと思う。
聴くのにはとっつきやすいけれども、オケの技量が露骨にわかってしまう曲なので、オーケストラにとってはいささかやっかいな曲だと思うけど、セントルイスのオケの性能はよい。
フィラデルフィアよりも上か、と訊かれたら、なかなか首を立てに振るわけにはいかないけれど、世界のトップクラスにいてもおかしくはないのじゃないかと感じる。
ことに、しっとりと潤いを帯びた弦がいい。チャイコフスキーの幻想世界にふさわしい。木管、金管はさほど色気があるわけではないけど、技量は文句のつけようがない。実直な職人芸のわざ。響きそのものは実直なもの。
スラットキンは、ときおりテンポや強弱を揺らせて、細かな変化をつけるが、それがとても上品に仕上がっている。
それにしても、チャイコフスキーはいい。
小学校6年のときに聴いた「くるみ割り人形」が、そのあと長きに渡ってクラシックを聴くきっかけになった曲だが、それは、いま聴いても充分に耐えうるどころか、じゅうぶん新たな感動を与えてくれる。
1985年3月、セントルイスでの録音。
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