プッチーニ オペラ集R・D・ウィングフィールド(芹澤恵訳)の「フロスト日和」を読む。
フロスト警部シリーズの第2作、警部の下品なギャグと捜査の勘が冴え渡る。
これがはたして収集つくのか、心配になるくらいに、次から次へと事件が発生する。
計画性のまるでない警部の捜査はいくつものミスを重ねながら、フシギに最後は収まるところにしっかりと収まるのだ。
ことに、最後の数十ページの怒涛の展開には、手に汗を握るしかない。
フロスト警部のお下劣なギャグをひとつ。
軍需工場で停電中に女工が強姦された話。
「やってきた警官はその女工に、誰にやられたのかを尋ねた。女工は、停電中のことだったので相手の顔は見てない、と言った。『でも、これだけは言えるわ』彼女は言った。『そいつは絶対、うちの工場の現場主任の誰かよ』『なぜ、そんなにはっきりと言えるんだね?』と警官は尋ねた。女工は応えた。『だって、始めから終りまでずっと威張りくさってて、あたしひとりがせっせと動かなくちゃならなかったんだもの』」。
メータの「トスカ」、ニュー・フィルハーモニア管とのもの。
冒頭からオケが気合満点。イキがよくて輝かしい。波乱万丈の物語を予感させずにはいられない。
主役級の歌手では、プライスのトスカが実に安定した声を聴かせる。高いところから低音までよく通る声だし、クセのない直球勝負がすがすがしい。理知的で聡明なトスカ、という感じ。
ドミンゴのカヴァラドッシは、いかにも不運な男を自然に歌っている。声もアクが少ないし、真面目で几帳面だ。
ミルンズのスカルピアは、恰幅はなかなか良いものの、性格的にはちょっと弱いような気がする。台本を読まないで聴いたならば、悪人とは思えないかもしれない。ことに、2幕でのトスカとスカルピアとの掛け合いのシーンでは、咆哮するオーケストラの音に、ほぼかき消されているところがある。声そのものが弱いのか、録音の加減なのか。
男性歌手は、みなうまいけれども、実にまっとうである。それが、この血なまぐさい劇に対してはいささか物足りないような気がする。
オーケストラは磐石の安定感。つややかでたっぷりとした弦を基調にした、ボリューム豊かなアンサンブルであり、管弦楽が主役といってもいいくらいに雄弁だ。
レオンタイン・プライス(S:トスカ)
プラシド・ドミンゴ(T:カヴァラドッシ)
シェリル・ミルンズ(Br:スカルピア)
ポール・プリシュカ(B:堂守)、他
ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
ズービン・メータ(指揮)
1972年8月、ロンドンでの録音。
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