チャイコフスキー 三大バレエ レナード・スラットキン指揮セントルイス交響楽団北尾吉孝の「中国古典からもらった不思議な力」を読む。
著者に直接面識はないが、私の前職時代に取引があった会社の総元締めでありコワイ存在であった。
ホリエモン事件のときに、たびたびテレビに出演しているのを見たが、押しの強い話ぶりにちょっと引いたものだ。
そういう著者なので、ハードルの高いところを目指す内容じゃないかと思ったが、やはりちょっと高い。
「私は、ストレスなんかまるっきり感じたことがありません」なんて豪語していて、出発点からして素材が違うようだ。
ただ、ハードルは高いけれども、言っていることは至極真っ当。新味はないが、説得力がある。
読み終わってみれば、ずいぶん多くのページに折り目をつけた。
『湯の盤の銘に曰く、苟に日に新たにして、日日に新たに、又日に新たなり』は『大学』から。
「人間の寿命など、一寸先はわかりません。だからこそ、一日一日、一秒一秒、この一刹那刹那を真剣に、言葉を変えればベストを尽くして生きていかないと、人生はつまらないものになってしまう」。
スラットキンの「眠れる森の美女」、先日に聴いた「くるみ割り人形」と同様に好調。
こちらのほうが、よりオーケストラの技量がはっきりする音楽であるが、セントルイス饗はなんなくクリアしているように聴こえる。
ある楽器が突出しているというわけではなく、どれも均等にうまい。フルートもオーボエもトランペットもハープも、そのほかの楽器も、たいへん技量が高く、洗練されている。
強いてどれかと言われれば、ヴァイオリンか。しっとりと潤いがあって、キメが細かい。アンサンブルもキチッとしていて隙がない。時折登場するソロも、音が濃くて存在感がある。
残響はある程度あるものの、ドライな明確な音で録音されている。こういう録音だと、アンサンブルの瑕疵がわりと見つかりやすいのだが、雑なところは見当たらない。
スラットキンという指揮者は、目を瞠るような個性の強い音楽を作る人ではないが、堅い。実に手堅い。
これだけ長い曲のすみずみまで気を配ってオーケストラをドライブすることは、なかなか気の張る作業だろうけど、意志強くやりとげている。
全体的にメリハリをはっきりとつけた演奏は、少々小ぶりだがしなやかでバランスのいい気持ちのいいものだ。
チャイコフスキーの音楽がすばらしいことは言うまでもない。バレエ曲はやはり、ぜったい全曲がいい。
1990~91年、セントルイスでの録音。
PR