ヴェデルニコフのピアノ、ロジェストヴェンスキー指揮ソヴィエト国立放送交響楽団の演奏で、モーツァルトのピアノ協奏曲15番を聴く。
この曲をLP時代から、カサドシュのピアノで親しんできた。両端楽章の明朗さと、緩徐楽章のしっとり感とのコントラストが素晴らしいのだ。軽やかで丸いピアノの響きと、セルのカッチリしたオーケストラとの按配がとてもよくて、浮き立つように楽しい演奏なのである。
ヴェデルニコフのピアノは、それとはやや趣きを異にする。
彼のピアノの音色は、どこを叩いても揺らがないかのように厚くたっぷりとしている。ずっしりとした低音から、密度の濃い高音まで伸びがいい。でも鈍重ではなく、足どりは軽い。それは、テンポが中庸なのと、強弱のメリハリがはっきりついているからだと思う。終楽章は踊りたくなる。
ニーチェの言葉を思い出そう。「軽やかな心を持つ多くの知識に触れたり、多くの芸術に触れるようにしよう。すると、わたしたちの心は徐々に軽やかさを持つようになっていくからだ。」
ロジェストヴェンスキーのオーケストラは、とてもいきがいい。とくに弦楽器の扱いはとてもしなやかで細やか。ピアニストとの息もぴったり合っている。
1971年、モスクワ、オスタンキーノ放送局での録音。
春。
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