和田憲明の「日曜日のメンタルヘルス相談室」を読む。
「私自身、三十六歳のときに妻と二人の子どもを抱えて一年間失業生活を送ったことがあります。その間、幾度となく弱気におそわれました。そんなときは妻の強気と友人の楽観に支えてもらい、子どもと遊んで気を紛らわせていました。暇で用事が見つからないときは、車をピカピカに洗っていました。職安へは、卑屈にならず、おどおどせずに通うことを心がけていました。」
自己啓発書に加え、メンタルヘルス系の本もわりと多く読む。前者はもちろん、後者についてもエラい人や学者が書いたものがほとんどだ。
精神分析学は確かにキレはいい。読んで納得することも少なくない。
だけど、著者自身が、本を出せるほどの成功者なので、それが引っかかるのだ。
僻みである。
だから、所詮は理屈の世界だと高を括ってしまう。
著者の和田憲明は、精神科を開業するもうまくいかず、失業生活を経て企業の産業医になった人物。
だからだろうか、眼差しが柔らかくて優しい。
などと感じるのは、偏見もあるだろう。
ボロディン四重奏団の演奏で、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲4番を聴く。
ベートーヴェンの弦楽四重奏曲は、便宜的に初期・中期・後期にわけられている。初期は1番から6番、中期が7番から11番、後期が12番から16番。
なかでも初期の6つは「作品18」としてひとくくりになっており、1800年頃に書かれたとされている。
4番は、メロディーの美しさ、構成の堅固さ、動機の華やかな展開においてひとつ頭を抜けていると思う。そして、緩徐楽章がないという点で、交響曲7番や8番の先駆けともいえるものだ。
1楽章はアレグロ、切り込みが激しく、とても劇的。録音の按配で、残響がほどよく取り入れられているので、コペンルマンたちの切っ先が鋭い響きがふうわりと捉えられている。「運命」のハ短調に、熱いパッションが迸しる。
2楽章はスケルツォ、フーガのような出だしから、あたかも万華鏡のように色彩豊かな世界が繰り広げられる。
3楽章はメヌエット、短調と長調がさりげなく入れ替わるところが聴きどころ。
4楽章はロンド。ここまでの形式をみるだけでもなかなか斬新であるが、音楽の質も高い。すでにもう、中期あるいは後期の扉が開かれんとしている。
音楽は最後プレストに移って締めくくられるが、ボロディンSQはエンジン全開にしてぶっ飛ばしていて、気持ちがいい。
ミハイル・コペルマン(vn1)
アンドレイ・アブラメンコフ(vn2)
ドミトリ・シェバリン(va)
ヴァレンティン・ベルリンスキー(vc)
1988年6-7月、サマーセット、チャード、フォード・アビーでの録音。
春。
PR