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ショルティのマーラー「交響曲第1番"巨人"」

2009.04.26 - マーラー
mahler

マーラー「巨人」 ショルティ指揮シカゴ交響楽団


太宰治の「人間失格」を読む。
最近、PHP文庫で発売されたもの。どちらかといえば、処世術が得意なPHP文庫から、このような処世からは程遠い小説が出ることが珍しい。
実務的な勤め人もたまにはこういうものを読め、と示唆するものなのか。仕事とこれほど遠い読み物も、なかなかないだろう。
私がこの小説を読むのはたしか3回目。だいたい、15年置きに読んでいる。読むたびにそれなりの感興を得られるのだが、今回読んで感じたことがある。
主人公は、女にもてすぎる。
今までも、うっすらとは感じてはいたのだが。
一緒に住んでいる女がいるにも関わらず、毎晩ふらふらと銀座や京橋に出かけて、何日か通ったあげく、店に泊り込んでしまう。もちろん、店にひとりで寝ているわけではない。
全編、こんなことの繰り返しである。こういうことは、太宰の小説には多いようだ。
小説はフィクションであったにせよ、伝記を読むと、こうしたことは現実にもかなりあったらしい。だから、まったくの創作ではなかったのだろう。
そう考えると、彼の苦悩は、実は女にモテすぎることに対する苦悩だったのかもしれない。
酒を呑んで、寂しくなって、つい女を誘ってしまう。そして、デキてしまう。そこが悩みのタネだったのじゃないか。
「人間失格」での苦悩。
なんとも羨ましいというか、忙しいというか。
ツライことなのかな。
こんなにモテたことはないから、実感は湧かないのだけど。


ショルティとシカゴによる「巨人」。
超合金演奏。

昔、超合金が流行ったことがあった。マジンガーZのものだった。
当時はなかなか高価なものだった。うちは特に裕福な家ではなかったので、高価なおもちゃは基本的には買ってもらえなかった。人生ゲームも、野球盤も、GIジョーも、友達はもっていることはあった。
だから、もっぱら友達のうちに遊びに行ったときだけ、触ることができたのだった。
でも、このマジンガーZは、例外的に買ってもらうことができた。なぜだったのか、当時はわからなかったし、今も思い出せない。たまたま親の気まぐれで買ってもらえたのかもしれない。
ずっしりとした重み。
テカテカの色合い。
すべすべの手触り。
こんなに高級なものが子どものおもちゃであっていいのかなあと、子ども心に思ったものである。
ショルティの演奏を聴いて、こんなことを思い出した。

最近、アンチェルの「巨人」を何回か聴いていて、ふと、ショルティの演奏はどうだったかなあということで、改めて聴いてみたのだ。
このショルティの演奏、どこから見てもどこで切っても、ムラのない整然とした佇まいがある。
メタリックな響きが全体を支配していて、技術的につけいるスキが見当たらない。
アンチェルとチェコ・フィルの演奏は、とてもいいものだけれども、テクニックということでは、ところどころ甘いところもあって、ちょっとあぶなっかしい場面もある。
でも、そういったところに、なんともいえない人間味というか風情があって、完璧ではないがゆえの味わいがあったりして、共感できるところでもあるのだ。
それに比べてショルティの演奏は、完全無比だ。技術的に指摘できる場面はないのじゃないかというくらい、完成されている。最初の、ロンドン饗とのものですら、これに比べればとても牧歌的に感じる。オーマンディとフィラデルフィアの演奏でさえ、手作りの味を感じるくらいである。
とくにすごいのは、終楽章の静かなところ。メタリックで付け入るスキがないのに、何故かなつかしい感覚を醸し出している。
こんなに完璧なのに、人間味からはほど遠いような演出なのに、暖かな情緒を感じるのが不思議だ。
シカゴ饗に就任したあとのショルティは決して強面ではなく、「完璧さへの情熱」に魅せられたきわめて実直な音楽家であったことを、この演奏から感じるのだ。


1983年10月、シカゴでの録音。
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Comment

無題 - rudolf2006

吉田さま こんにちは

コメントが遅くなりました。m(_ _)m
ちょっと色々とありました〜。
私も、「職業人失格」かもしれません、爆〜。
太宰、もてたようですね、二枚目ですし、ニヒルですしね〜。羨ましい限りです。もてて「人間失格」だと、私も一度でも良いですから言ってみたいです〜。

ショルティのマーラーの1番
マーラーの一番では、指揮者に30分の3楽章のソロでいたぶられた経験があって、1番はほとんど聴きません。ですが、演奏会で、指揮者に立たせてもらって時に「ブラボー」と声を誰かがかけてくれたことがあります。生涯でまだ1回しかありません。それが、マーラーの1番の演奏でした。
苦労しがいがあったというものです
その指揮者は練習のすぐ後になくなり、演奏会は臨時の指揮者であったのですが、その指揮者にはまったく虐められることはなかったんですが〜。
これほど怖いソロ、初めてです。3楽章の冒頭のソロです。

ショルティの演奏、今聴きながらコメントを書いています。私には、非常に健康的なマーラーだな、と思ったりしながら聴いています。
「実直な演奏」分かるような気がします。
初めて聞いていますが、なかなか良い演奏ですよね、ショルティの演奏には本当にカスが少ないですよね〜。

ミ(`w´彡)

2009.04.28 Tue 15:21 URL [ Edit ]

Re:rudolf2006さん、こんにちは。 - 管理人:芳野達司

いつもコメントをありがとうございます。

色々とありましたか〜。
私も、最近いろいろと。家庭のことよりは職場であります。
期初ということもあり、目標設定やらなんやかや、ジャブの応酬を受けております。業績もイマひとつですし〜。
この連休で、なにげなく初期化したいものです^^

太宰ですが、読んでみると相変わらずの嘆き節。
主人公はいつもモテモテで参ります。
といいつつ、たまに読みたくなるのです。

3楽章のコントラバスのあとのソロですね。全曲でも、聴かせどころのひとつですね。「ブラボー」との掛け声、いいものなのでしょう。コンサートのあとのビールがうまそうです。

ショルティのマーラーは、確かに健康的かもしれません。実に元気というか、屈託がないというか。
なんといっても、オーケストラの鳴りっぷりがよいですね。
あまりに完全すぎて、聴いていて面白みがないようにも感じるのですが、これも、たまに聴きたくなるのです。
2009.04.29 09:06

無題 - neoros2019

七不思議です
巨人は今まで、LP時代よりCDまで
メータ/イスラエルフィル
ケーゲル/ドレスデンフィル
バーンスタイン/コンセルトヘボウ
テンシュテット/ロンドンフィル
などなど何枚も購入したはずなのにただの一枚も手元に残っていません
相性が良くないのか
探せばテンシュテット/シカゴ響との海賊CDがまだ残っているかも
棚をひっくり返してみましょう
2009.04.29 Wed 00:51 URL [ Edit ]

Re:neoros2019さん、こんにちは。 - 管理人:芳野達司

コメントをありがとうございます。

CDで巨人は、
ショルティ/シカゴ
オーマンディ/フィラデルフィア
ケーゲル/ドレスデン
アンチェル/チェコ
テンシュテット/ロンドン
マルケヴィッチ/フランス国立
アバド/シカゴ
あたりで、テンシュテット/シカゴはLDがあります。
ただこの多くは、棚に眠ったままです…。
LPは思い出せません。持っていなかったかもしれません。
2009.04.29 09:22
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