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"絶叫委員会"、ケーゲル、"英雄"

2014.03.09 - ベートーヴェン

ケーゲル



穂村弘の「絶叫委員会」を読む。

これは、歌人が街中を歩いて拾った「偶然性による結果的ポエム」の紹介。
結果的ポエムは、学生時代の友達のセリフや、電車の中で聴こえた女子学生の会話など、いたるところに転がっている。

後半になるにしたがってぐんぐん面白くなってゆく。引用するときりがないので、ひとつだけ。

著者があるお寺を訪問したとき、池に白鳥がいた。近づくと、こんな看板が。
「噛みつきますから白鳥に近づかないで下さい」。
「熊は怖いけどパンダは可愛いってのが怪しいとは思っていたけど、白鳥は盲点だった」。

白鳥は噛みつかないというのは思いこみなのだ。そういうことに縛られて我々は生きている。
このような出来事に遭遇すると、自分の世界が軽く、凍る。









ケーゲルの指揮で、ベートーヴェンの交響曲3番「英雄」を聴く。

ケーゲルのベートーヴェン全集は、ずいぶん前に購入したにもかかわらず4番と7番と9番を聴いたくらいで、ずっと放置していたものだ。
先日、neoros2019さんから「英雄を聴いてみろ」と薦められたので、先週から毎日のように取りだしている。

これは、深いベートーヴェンだ。
一聴すると、響きは柔らかい。弦はしなやかにうねり、ホルンは朗々と鳴り、木管群はバランス感覚が抜群。
ケーゲルの指揮は力みがない。1楽章の再現部のクライマックスは、自然な力感がこもる。普通にいい。

聴きどころは2楽章以降。アンサンブルの精度の高さは、この曲の音盤のなかでもトップクラスなのではあるまいか。淡々とした佇まいのなかに、豊かな情感がこめられている。この時間、じつに濃厚だ。
金管のファンファーレがテヌートで奏されるところはユニーク。

スケルツォは泡立つように生き生きとしている。2楽章と対比したとき、新鮮な生命の息吹を感じないわけにいかない。ホルン、木管がとりわけ鮮やか。

終楽章は、まず冒頭の弦楽器の切り込みが鮮烈。やられた。尋常な指示では、この音は出せないだろう。
以降、しなやかな弦楽器群が土台になり、木・金管群が巧妙なスパイスを振りかけ、堂々と進んでいく。ラストのヴァイオリンのキザミとティンパニがカッコいい。

ドレスデン・フィルは、同じ都市にあるシュターツカペレに比べると地味なイメージがあるが、これを聴くと、勝るとも劣らない実力があるように感じる。



1982~83年の録音。








ma
 

Perth Quarry








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Comment

中期ベートーヴェンの音力 - neoros2019

このヨワイになって日常生活してゆく「こころ」の弱さを個人的にトミに痛感するようになっています。
そんなときワンポイントで即効性があるのは、やはりベートーヴェンの音力だな、というような気がしています。
こんな時はブルックナーでもシューベルトでもバッハでもないなと!
弦楽四重奏曲第4番ハ短調全曲、ラズモスキー1番、クロイッツェルソナタ、ワルトシュタイン、ハンマークラーヴィア等々
加えて第7番シンフォニーのアレグレットとエロイカの葬送行進曲。
できるだけ録音がよく重たい演奏が良いと思って選択したのが最後ピストル自殺でこの世を絶ったケーゲル盤です。
ケーゲルはアルビノーニのアダージョやバッハのアリア等でも葬送系の曲に異彩を放つ名演をのこしているようなので
これぞベートーヴェンという押し付けがましさの極致であり録音ができるかぎり良い演奏を選択して聴く時期が長くなりそうです
2014.03.14 Fri 19:44 [ Edit ]

ベートーヴェンは深い。 - 管理人:芳野達司

neoros2019さん、こんばんは。
この数年は、もっぱら後期の作品を好んでいます。完成度では中期が最も高いと思いますが、なにしろ押しが強いので、ちょっと腰が引けてしまうような。
後期の作品は重いですけれども、なにかがふっきれたような潔さを気に入っています。
初期もよいですね。弦楽四重奏では4番はいいですし、1番と5番も好きです。ピアノ・ソナタも魅力的。

ケーゲルのベートーヴェンは独特の味わいがあります。9番の合唱の精緻さ(あるいは脱力さ)はかけがいのない解釈だと感じています。
交響曲全集、じっくりと取り組んでいきたいと思います。
2014.03.14 23:05
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