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リヒテルのベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第17番『テンペスト』」

2007.01.23 - ベートーヴェン
リヒテル

スビャトスラフ・リヒテル/ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第17番『テンペスト』」


リヒテルは、最も録音に恵まれない演奏家のひとりじゃないかと思う。彼に比肩するのはムラヴィンスキーだ。
両者に共通するのは、旧ソ連で活動していたということで、特にステレオ初期以前のものは、技術的に劣っていて聴きばえがしないものも多いと思う。
で、彼らが70年代以降に録音したものは良いかといえば、残念ながら水準以下のものが多数を占めているようだ。

このことについて、ちょっと妄想してみた。

例えば、カラヤンとショルティには、優秀な録音が多い。これは、DGとデッカの技術が優れているということと、録音の数そのものが多いということがあるのだが、それ以上に重要なポイントなのは、彼らが録音という行為に対して、協力的だったからである。録音の現場というものは、いろいろな要素が作用されるものである(なんて、実際に見たことはないのだが)。マイクのセッティングが煩わしいこともあるし、録り直しだって面倒な作業だ。でも、彼らはそういった煩雑な仕事を我慢強く受け入れたはずなのである。録音技師たちの詳細な指示を、彼らが甘んじて飲み込んだ局面は少なくないと思われる。
ピアノ1台でも、レコードの録音は難しい、オーケストラならなおのこと、微妙にして繊細な作業になるはずで、そこには演奏者の演奏以外の努力も少なからず介在しているはずなのである。
それを鑑みると、リヒテルやムラヴィンスキーは、そういった音楽以外の雑事を拒否した結果、優秀な録音に出会えなかった、のではないか。
演奏会だけが音楽ではないということは40年前にグールドが提示しているのだが、録音の不自然さを嫌がる感覚は、素人の私でもわからないでもない。彼らは素朴で偉大な音楽家だったことを、時代にしては音の悪いCDを聴いて、涙ながらに確認するしかないのである。

リヒテルの「テンペスト」は、この曲のベスト誉れ高い演奏である。この曲を作った頃のベートーヴェンは意気盛んで、生命力に溢れすぎたところが聴いている身にはつらくなることもある。こういう曲をリヒテルが弾くと、これがまたすごいことになる。世界中のちゃぶ台をひっくり返して回るような迫力に満ちている(この表現は某作家のパクリ)。
…ちょっと、大袈裟かも知れない。
この曲は年代的には初期の後半にあたると思うのだが、中期の血気盛んなベートーヴェンの音楽の核心を、そろそろつき始めている音楽となっているように思う。
録音は1961年のもので、優秀とは言いがたく、おそらくリヒテルの生の魅力の数分の一しか伝えていないと思うのだが、それでも緊張感に満ちたピアノは迫力充分である。
酔っ払った体で聴くと、血が騒いで酔いが回る。




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Comment

無題 - bitoku

こんばんは。

吉田さんのブログはこのところベートーヴェンのピアノ・ソナタが多いですね。楽しんで読ませて頂いております。
この調子でベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集を完成させてください。(笑)
その代わり私はショパンの”ピアノ・ソナタ全集”を完成させますんで。ってショパンは実質3曲しかないのであまりに不公平でした。(笑)

>世界中のちゃぶ台をひっくり返して回るような迫力に満ちている(この表現は某作家のパクリ)。

ド迫力が伝わってくる表現ですね。私も今度使わせてもうらいます。
でも”ちゃぶ台”って日本だけじゃなくて世界中にあるのでしょうか?!

>こういう曲をリヒテルが弾くと、これがまたすごいことになる。

本当にすごいことになってますよね。
実にリヒテルらしい重~いタッチでズッシリとした聴き応えがあります。
2007.01.24 Wed 00:58 URL [ Edit ]

Re:bitokuさん、おはようございます。 - 管理人:芳野達司

このところベートーヴェンのピアノ・ソナタに凝っていますが、ソリストが偏ってしまいます。

>この調子でベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集を完成させてください。

そこまでできればいいのですが…。全集をグルダしか所有していないので、おおくはグルダになってしまいそうです。

>その代わり私はショパンの”ピアノ・ソナタ全集”を完成させますんで。ってショパンは実質3曲しかないのであまりに不公平でした。(笑)

わっはっは。でも、1番の記事なんかはあまり見かけませんね。

「世界中のちゃぶ台をひっくり返して回る~」は、村上春樹の『意味がなければスイングはない』で、ホロヴィッツの弾くプーランクを評した言葉です。妙に印象的な形容詞です。

>実にリヒテルらしい重~いタッチでズッシリとした聴き応えがあります。

仰るとおりで、スケールの大きな音楽に圧倒されますねー。
2007.01.24 07:50

無題 - sweetbrier

はじめまして。Niklaus Vogelさんの音楽鑑賞雑記帳からたどり着きました。

リヒテルのベートーヴェン・ピアノソナタのエントリーを楽しみに拝読しています。楽曲ごとの感想のほかに、いつも少し触れておられるピアニストとしてのリヒテルについても興味深く、また共感も覚えます。
私の拙い感想ですが、TBさせていただきました。
2007.01.24 Wed 21:24 URL [ Edit ]

Re:sweetbrierさん、こんばんは。 - 管理人:芳野達司

こちらこそ、はじめまして。
Niklaus Vogelさんのブログを通じて、sweetbrierさんのブログをいつも拝見しております。
ベートーヴェンもリヒテルも好きで、時々書いておりますが、いつも酔っ払いの戯言になっておりますので、ご容赦くださいませ…。
ベートーヴェンを弾くリヒテルについては、このあとも少し書きたいと思っています。
どうぞよろしくお願いいたします。
2007.01.24 23:35

無題 - Niklaus Vogel

吉田さん、こんばんは!
この2枚組みディスクに収録されている曲は、このソナタ、シューベルトの「さすらい人幻想曲」の他に何が収録されているのでしょうか?
フランスEMIの「Rouge et Noir」シリーズとは、廉価で魅力的な録音が多いのですが、HMVのサイトなどで調べても、収録曲がすべて掲載されていません…。お手数かけて申し訳ございませんm(_ _)m
ところで、ピアノソナタ全集を取り上げる企画のあかつきには、私はフランツ・リストでいこうと思います(爆)。
2007.01.24 Wed 22:00 URL [ Edit ]

Re:Niklaus Vogelさん、こんばんは。 - 管理人:芳野達司

このCDの収録曲は、以下のようになっています。
ベートーヴェン:ソナタ1,7,17番+アンダンテ・ファヴォリ
シューベルト:「さすらい人幻想曲」+ソナタ13番
シューマン:「幻想曲」
です。
録音年代がけっこう飛んでいますが、とても充実したCDだと思います。

「私はフランツ・リストでいこうと思います」
いいですねー、って1曲じゃないですか(笑)。
2007.01.24 23:40

無題 - bitoku

こんばんは。

すみません。私の無責任な一言で何かベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集の話が進んでしまっているようです。(笑)
私は予定通りショパンのピアノ・ソナタ全集ということで。(笑)
では。
2007.01.24 Wed 22:10 URL [ Edit ]

Re:bitokuさん、こんばんは。 - 管理人:芳野達司

ソナタの全集となると、あと30曲弱になりますが…、長いスパンにて挑戦したいと思います。
まだまだ聴いていない演奏が膨大にあるので、聴くのはとても楽しみですね。

ショパンのソナタですが、実は私は1番を聴いたことないかも知れません。bitokuさんの記事が出るまで封印ということで(笑)。
2007.01.24 23:44
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