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後日の話、パールマン、パガニーニ「ヴァイオリン協奏曲第1番」

2011.07.31 - パガニーニ
  
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パガニーニ「ヴァイオリン協奏曲第1番」 パールマン(Vn) フォスター指揮ロイヤル・フィル


河野多恵子の「後日の話」を読む。
「思わぬことで殺人犯となったジャコモは、斬首刑に処される直前、面会に来た若妻エレナの鼻を食いちぎった」、とある裏表紙に興味を持った。

舞台は17世紀のイタリア、トスカーナ地方。
鼻を食いちぎられた若妻が送ったその後の人生が描かれる。エレナと、周囲の人々がとてもいきいきとしていて素晴らしいのと、ときおり出てくる生活感溢れる筆致がいい。
たとえば、エレナが噂できいて興味を持ち、市場まで買いに行った「法螺貝」を母と一緒に料理をするシーン。和やかだし、なんともうまそう。

「夕方、ざるに上げてあったのが、皆薄切りにされ、茹汁に戻して煮られた。フランチェスカは塩だけで味を調えた、一、二度味見をしてから、二つのカップに少しずつ注いで、片ほうには白葡萄酒を二、三滴たらした。両方の味を試してみてから、「どちらがいい?」とムゼッタにも味見させた。「お塩だけのほうがいいように思いますけれど」と彼女は言った。彼女から廻ってきた両方のカップを試してみて、エレナもそう思った。薄切りの肉は掻き上げて、捨てられた。食卓には、その塩だけを使ったスープが出た」。



パールマンのパガニーニを聴く。
パガニーニのヴァイオリン協奏曲はどれも、技術的に大変難しい音楽であろうことは、ワタシのような素人でもなんとなくわかる。速いパッセージでは、やたらとたくさんの音が詰まっているし、音階も激しく上下しているので、これを弾きこなすには相当な運動神経を要するだろう。遅い部分でも、ときおりハーモニクスという技法がでてきたりして、これについてはどれほど難しいのかどうかよくわからないのだが、みんな大変だと言っている(誰だ)。

そういうことがあり、この曲を弾くのはもっぱら腕っこきのヴァイオリニストばかり。この曲を、技巧をひからかすには最適だが内容は希薄、なんて批判もあるようだが、これをキチンと弾くテクニックがあれば、とりあえず音楽で食っていけるのじゃないだろうか。

パールマンはもちろん、この難曲を弾きこなすテクニックをもっているし、単にうまい以上ものがある。天空を舞うような軽やかさと、音の美しさ。彼は70年代後半くらいから音にヤニ臭さがでてくる(これはこれで嫌いではない)が、この頃は明るくて澄んだ音色である。
あと、パールマンを聴いてつくづく素晴らしいと思うのは、ディテイルへの気配りである。過去の名人といわれる奏者が、うまいけれども荒っぽい演奏をするのをときどき聴く。パールマンは、細かい部分も決してないがしろにしない。どんなに速くとも、音をキチンと弾き切る。音楽に対する愛情である。普通、それを達成する努力は並大抵ではないはずだが、パールマンは天才だから、苦労せずに弾いているのかもしれない。
いずれにしても、痛快な演奏。


1971年8月、ロンドン、キングズウェイ・ホールでの録音。
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Comment

練習嫌いのパールマン - yoshimi

パールマンは練習嫌いだったと、室内楽曲のピアノ伴奏を受け持っていたアシュケナージが言ってました。
でも、演奏会当日の演奏は完璧。練習嫌いでも、どんな難曲でもスラスラ弾けてしまうのですから、やっぱり天才なんでしょう。
それに細部まで丁寧に音楽的に弾けるのは、難曲であっても技巧的に余裕があることも、理由の一つのように思います。
パールマンの伴奏をするピアニストは、アシュケナージクラスの腕達者な人でないと、デュオの練習不足気味でちょっと不安ではないかと想像してしまいます。
2011.08.01 Mon 00:19 URL [ Edit ]

Re:まだまだ活躍してほしい - 管理人:芳野達司

yoshimiさん、こんにちは。
パールマンは練習嫌いなのですね。プロ野球の選手にも練習をあまりしないでガンガン打つ人がたまにいますが、ああいう類の天才なのでしょう。
このパガニーニの曲、鼻歌でも歌いながら弾いていそうに聴こえます。全然危なげがないのです。
アシュケナージとの共演というとベートーヴェン。
技巧の見事さはもちろん、おおらかな明るさがあって、気持ちのいいものです。あのCDも、ヴァイオリンの素晴らしさをしみじみ伝えてくれる演奏だと思います。
2011.08.01 05:41
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