藤川真弓(Vn)エド・デ・ワールト指揮ロッテルダム・フィルテリー伊藤の「不道徳講座」を読む。
不道徳のススメについて最初と最後に書かれているが、真ん中の8割方は著者がただ好きなことを書いているようだ。全体の内容は題名にそぐわないが、いつも通りの奔放なアイデアが満載。
共感したのは「雑魚寝のすすめ」。
「なにしろ私の実家は親子七人。川の字が二つもできて、さらにそれでも一画余っているという絵に描いたような雑魚寝中の雑魚寝だった」。
「息を殺して女の子に電話するとか、トイレに行く時に気をつかうとか、そういう環境の中でたくましさやタフさが身につく」。
実は私の家も川の字状態だ。私とカミさん、そして高校1年の息子。
べつに、タフさを身につけるための方針ではない。
息子には部屋を与えているのだが、そこにはあまり寄り付かないので倉庫のようになってしまっている。
しかしやはり、高校生ともなればいろいろある。そのあたりどうしているのか。定かではない。
まあ本人もたぶん好きこのんで川の字なのだから、あまり深く考えずにそうしている。
光熱費も経済的だし。
藤川真弓のチャイコフスキー。
彼女は1970年のチャイコフスキーコンクールで2位入賞をして以来、80年代くらいまで日本を代表するヴァイオリニストであった。
国際的にも活躍していて、このチャイコフスキーやウェラーとのモーツァルトのレコードは、ひところ評判を博したもので、その後に登場した五島や諏訪内、神尾といった国際的な女性ヴァイオリニストの先駆けとして光る存在なのである。
その実力は、このチャイコフスキーの演奏にもよくあらわれている。
堂々としており、かつユニーク。
どこがユニークかと言うと、徹頭徹尾に冷静なヴァイオリンなのである。ひたすら低い温度で進行する。
いくつかの盛り上がる場面においても、じつに淡々と弾きこなすので、熱狂を期待しているとズッコケること請け合い。
どこをとっても低温でスマートなところは、近寄り難い美女の雰囲気を思わせなくもない。
音そのものは実に繊細なもの。この解釈は音を生かすためであるとみた。細い線をバランスよく繋いでいる。
こんなにスマートなチャイコフスキーは珍しい。
デ・ワールトのサポートもソリストの空気にぴったり合わせた堅実なもので、こちらも負けず劣らずじっくりと冷ややか。いいコンビネーションである。
1973年の録音。
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