シュライアーのテノール、シフのピアノでシューベルトの「冬の旅」を聴く(1991年8月、ウイーン・コンツェルトハウス、モーツァルト・ザールでの録音)。
テノールで冬の旅を初めて聴いたのはシュライアーで、伴奏はハンマー・クラヴィーアだった。昔、FMでエアチェックしたもので、今も大事にとってある。それを大学時代の夏休みに、男の友人と外房の海へ車で出かけたときにかけていたものだ。
とても、明るいとはいえない青春ではある。
そのあと、シュライアーはリヒテルとこの曲を録音した。リヒテルのピアノはとてつもなく風格があってすごいのだけど、シュライアーもリリカルな歌を聴かせてくれて。いろいろな意味で印象に残る演奏。
そして、これ。シフのシューベルトは、悪かろうはずがないわけで、それが冬の旅とくれば格別なもの。
とても、デリケートな演奏である。シフのピアノは微に入り細に入り、細部をないがしろにしない。ちょっと神経質な気もしないではないけれど、そのスタイルが一貫しているので、これは見識。
シュライアーは録音当時、50歳半ばであるが、相変わらず、透明なガラス細工のような歌を聴かせてくれる。それを保持しつつ、彫りの深い陰影を添えている。
そんな若々しい歌だから、最後の「辻音楽師」は、悲痛な叫びではなく、少年の紅を差した頬のよう。
パースのビッグムーン。
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