カザルスとヴェーグ弦楽四重奏団の演奏で、シューベルトの「弦楽五重奏曲」を聴く(1961年7月、フランス、プラード音楽祭におけるライヴ録音)。
この曲は、室内楽の「白鳥の歌」とも云える、シューベルト晩年の大作。長いだけに簡単ではないが、なんだかんだと聴いている。
これは、とてもゴツゴツとした手触りの演奏。
比較的最近の演奏、たとえばエマーソンだとかフィッツウィリアムとかウイーン・アルバン・ベルクのような、精緻でなめらかなものとは趣きが異なる。
テンポをゆっくり目にとって、ひとつひとつの音符を慈しむように弾いており、足取りはずっしりとしたもの。
カザルスは、ときに80歳半ば。技術的には完璧とはいえないかもしれないが、ときおりたっぷりときかすポルタメントを含めて、極めてロマンティックであり、かつ幻想味も豊か。
シャーンドル・ヴェーグのヴァイオリンもそれに歩調を合わせたかのようで、濃厚な味わいのある歌い回しを存分に聴かせてくれる。
全体を通して、決して現在的に洗練されたものではない。でも、この演奏で聴くことのできる、なんとも無骨で線の太いロマンティシズムには、抗しがたい魅力があるし、他ではなかなかお目にかかれないのでは。
シャーンドル・ヴェーグ(ヴァイオリン1)
シャーンドル・ツェルディ(ヴァイオリン2)
ゲオルグ・ヤンツェル(ヴィオラ)
パブロ・カザルス(チェロ1)
パウル・サボ(チェロ2)
パースのビッグムーン。
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