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"姑獲鳥の夏"、福井敬、"美しい水車小屋の娘"

2013.06.16 - シューベルト
 
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シューベルト「美しい水車小屋の娘」  福井敬(T) 横山幸雄(Pf)



京極夏彦の「姑獲鳥の夏」を読む。

妊婦の長すぎる懐妊を引き金に、嬰児の行方不明が発覚する。
舞台は戦争直後の雑司ヶ谷。
古本屋にして憑き物落としの京極堂と、未来の出来事が見える探偵の榎木津、そしてノイローゼの作家らが事件の真相を暴いていく。

これは京極堂シリーズの1作目であるが、私は先に後続の「鉄鼠の檻」を読んでいた。結論としては、「鉄鼠の檻」のほうが面白かった。
本作は大詰めのところで、いろいろな人物が錯綜するので、正直言って途中から訳がわからなくなってしまった。

京極堂シリーズ、これを最初に読んだならば、諦めただろう。










福井敬のテノールでシューベルト「美しい水車小屋の娘」を聴く。

これは、松本隆による日本語版の演奏。
彼は言うまでもなく歌謡曲界の大作詞家といってもいい存在だが、クラシック音楽にも造詣が深く、このほかにも「冬の旅」の日本語版も出しているという。興味深い。

さてこの「水車小屋の娘」の歌詞、ドイツ語の訳に比べると圧倒的に情報量が少ない。
例えば、9曲目の「水車職人の花」をドイツ語訳と比べてみよう。


「水車職人の花」

小川のほとりにたくさんの小さな花が咲いていて
明るい、青い目でのぞいている
小川は水車職人の友達だし
僕の愛する人の目も青色に輝いている
だからこれは僕の花たちなんだ

彼女の窓のすぐ下に
僕はこの花々を植えよう
そうすれば花々は彼女に呼びかけるだろう
みんな寝静まり、あの娘がウトウトと頭を傾ける時刻に
そして、彼女は知るんだ、この僕の気持ちを

そして彼女が目を閉じて
甘い、甘い眠りに落ちた時には
夢の中でも囁いておくれ
彼女に、「忘れないで、僕を忘れないで!」と
これが、僕の気持ちなのだから

そして彼女は朝早くに窓を開けると
かわいらしい眼差しでそこに見るんだ
おまえたちの目に宿る露を
それは僕の涙なんだ
僕はおまえたちの上に涙を流すのだから



「青い花」

岸辺の斜面に青い花が咲く
あの娘の瞳と同じ空色の
小さな花がぼくを見つめる

窓辺の地面にこの花を植えよう
あの娘がまどろんで寝息をたてたら
どうささやけばいいかわかるね

眠りに落ちたら夢の散歩道
あの娘を待ち伏せそっと伝えてよ
「忘れないで」って
「忘れないで」って

夜明けにあの娘が鎧戸あけたら
濡れた花びらできらきら見上げて
その朝露はぼくの涙さ



これだけを見てしまうと、物足りなさを感じないではない。ところが、実際に歌われているのを聴くと、印象はガラリと変わる。
なんといっても、日本語がじつに美しい。それが第一印象だ。原語では、ひとつの単語が1音符に集約されているケースが多いが、ここでは1文字が1音符、あるいは1文字が複数の音符に跨って歌われる。その結果、歌詞はゆっくりと流れるから、聴きとりやすいのである。噛みしめるように歌われており、ひとつひとつのフレーズに重量感がある。ミュラーの詩をみごとに端的に再生している。

福井のテノールは、そうした日本語を明瞭に発音しており、この原語の美しさを堪能させてくれる。場面によって歌い分ける技術は卓越している。あるときは毅然と、あるときは打ちひしがれて。
横山のピアノは硬質。水晶のような輝きがあり、ややもすれば情緒に流されそうな音楽をぐっと引き締めている。いい伴奏である。



2004年3月 岐阜、サラマンカ・ホールでの録音。












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