八重奏曲集 ロンドン・メロス・アンサンブル高橋秀実の「からくり民主主義」を読む。
世界遺産の白川郷、諫早干拓湾問題、沖縄米軍基地問題、青木ヶ原樹海探索など、たびたびニュースに取り上げられるネタについて、著者は実際に現地に赴いて取材を行う。テレビや新聞からでは窺い知れない事実のオンパレードである。
白川郷に住む住民は、世界遺産になったことで大変迷惑をこうむっていること、沖縄住民のなかには米軍基地の利権で潤っている人も多く、必ずしもみんなが移転に賛成ではないこと、など。
事件は現場で起きている。だから現場に行かないことには状況はわからない。
著者はこのような目立つ問題だけでなく、わりと地味なことがらにも目を向ける。
群馬県のある高校。ここでは「小さな親切」運動を奨励していて、その施策の一環として電車・バスの席ゆずり運動に励んでいる。
生徒は一日何回席を譲ったかを数えていき、それは累計で160万にも達したという。
「歩いて通う寮生は電車に乗れないが、『席ゆずりの心だけは負けない』と、実家に帰省するときは席ゆずりに励み、回数を稼ぐ。友達と話すのが苦手で、ゆずりベタだったある生徒は、知的障害者が席ゆずりをするのを見て『私にもできるんだという勇気をいただいた』結果、184回を達成し自分自身が変わったという。彼女によれば、席ゆずりのコツは『まず自分が座ること』だそうで、必ず座って年寄りが来るのを待ち構える。」
いやはやなんとも。
シューベルトの八重奏曲も好きな曲だ。なにしろメロディーがいいし、不思議な浮遊感が魅力である。好んで聴きだしたのはこの2,3年くらいのこと。こんないいものを知らなかったなんて、まったくいままで何を聴いていたのだろうか。
持っているCDは3,4種類にすぎない。いずれもウイーンとかベルリンとかウイーン・ベルリンとか、有名であるものの、どれがどれだか区別がつかない団体。わりと似通ったものであるが、どれもいい演奏である。
ロンドンの団体によるものは、初めて聴くかもしれない。名称にメロスとあるけれど、あのドイツの四重奏団とはメンバーが違うので、関連はないのかもしれない。
これも実にいい。弦は伸びやかだし、管はうまい。全体のバランスがよいから、どのパートも聴き分けられるように感じる。
ウイーンとかベルリンとかの団体と違うのは、こちらのほうが管楽器が全面に出ていること。ことに、クラリネットがときおり奏するアドリブっぽい装飾音はなかなかしゃれていておもしろい。
録音は明瞭。とても40年以上前のものとは思えない。録音であることを忘れるような、といったら大げさだが、かなりいい。
1967年12月、ロンドン、アビーロード第1スタジオでの録音。
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