友人が作ったヴァイオリン曲の世界初演、その他を聴きに行く。
コンサートは4部構成、最初の3部はアマチュア音楽家を中心としたプログラム。アマとはいえ、演目はバッハ、モーツァルトからメシアン、ペルト、吉松まで多岐に渡っており、長時間まったく飽きることなく楽しめた。
ここでは全部を書けないので、深く印象に残ったみっつををあげる。
ひとつは、安部淳の「ヴァン・ヴォヤージュ3周年の為の祝典前奏曲」。編成はヴァイオリンとピアノで約10分を要する音楽。自由な形式で書かれていると思うが、特に前半に感銘を受けた。大人になっても尚残る少年時代の手触りと匂いを、甘いメロディーに託したかのよう。戻れないが故に強くなるセンチメントに感動した。
ふたつめは、モリコーネの「ニューシネマパラダイス」。フルートにギターの組み合わせが絶妙。ギターの大野伊知朗もいいがフルートの松田晴香が秀逸。しっかりと芯のある音色でもって現代最高峰のカンタービレを吹ききった。感涙もの。
みっつめは草道健一朗のピアノでペルトの「アリーナのために」。非の打ち所がない演奏。技巧的には比較的易しいと思われるが、なによりも毅然とした佇まいが素晴らしく、深く印象に残る。
4部はプロの2人の演奏。ピアノは長谷川美沙、ヴァイオリンは待谷翠。
まずはデュオで、ドヴォルザークの4つのロマンス。待谷のヴァイオリンは野太くて手厚い響きが特長。チェコの作曲家だからといっていたずらに野趣を強調せず、洗練された香りの漂う演奏。
次からはピアノソロ。まずはシューマンで「アラベスク」。カッチリとした硬質の音を基調に、細かいルバートを用いて多様な幻想味を醸し出す。
つぎの「パピヨン」は難曲。ピアノの持つ性質を最大限に生かしたような音楽で、技術的にも情感の吐露も簡単にはいかないと思われる。長谷川はいとも簡単に弾いてゆく。高音は秋空のようにクッキリ澄み渡り、中低音は大きく柔らかく広がる。シューマンの霊感がゆっくりと寄せてくる。普段は使わない中央部のペダルを使用したとは、演奏後の談話。
次はショパンが3曲。
遺作の夜想曲は硬めの打鍵が冬の夜のように凛としていた。幻想即興曲はピッチャーで言えばストレート主体。夜想曲9の2も、確かなテクニックに裏付けられた、自信が漲るようなピアノ。
最後はデュオで、ピアソラの「リベルタンゴ」。ピアノとヴァイオリンの音のバランスがいい、端正な演奏。
長谷川はデムスの最後の弟子だという。だから、シューマンを得意としているのかもしれない。
コンサートの終演後に、クライスレリアーナの最初を聴かせてくれて感激した。
コンサート会場、というよりもサロンといったほうがしっくりくるかもしれない。30坪程度の空間で生演奏を聴く。なんという贅沢。存分に味わった。
2015年10月31日、大阪、レ・ヌーヴォレにて。
スワン河対岸。
重版できました。
「ぶらあぼ」4月号に掲載されました!PR