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イツァーク・パールマン 東京公演

2013.10.06 - 演奏会

ma




パールマンを生で初めて聴いたのは中学二年のとき。
東京フィルの定期演奏会でメンデルスゾーンのコンチェルトを弾いた。
K君とふたりでチケットを買った。その直後、家の近所に東京フィルの事務局の人がいて、母が私ががクラシック音楽を好きだということを言ったら、毎月、定期演奏会の招待券をくれるようになった。このパールマンの月から。
それでチケットが二枚余ってしまって、他にクラシックを好きな友達を誘って四人で行ったのだ。会場はそのとき、東京文化会館は改修中だったので、日比谷公会堂。

だから、今夜のパールマンは35年ぶり。



ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ1番
グリーグ ヴァイオリン・ソナタ3番
タルティーニ ヴァイオリン・ソナタ「悪魔のトリル」
いろいろ名曲集



35年前は松葉杖をついて現れたパールマン、今日は電動車椅子で登場。快速で舞台に舞い降りた。

ベートーヴェンの、なんて瑞々しいこと!
春の若芽のような、生命の息吹を感じないわけにはいかない。もともとが明るくて前向きな音楽だから、パールマンにはぴったり。気持ちのいい演奏だった。

グリーグのヴァイオリン・ソナタは、今日の朝に軽く1回聴いただけなので、あまり馴染みのない曲。
ところが、これが本日の白眉だった。なんと言っても2楽章。すばらしくメロディアスな音楽。北欧ならでは、グリーグならではの曲だ。しっとりとしていて、ちょっぴり冷やかな温度。
これをパールマンは、潔く弾く。衒いがない、まっすぐなヴァイオリン。感傷的にならずに、かつ朗々と弾きこなす。最後の高音の、空気を切り裂くようなピリっとした感触は、生演奏の醍醐味。

「悪魔のトリル」では、パールマンが技巧面でもまったく衰えていないことを示してくれた。規則的に、かつ素早く動くトリルの一音一音が明確に聴きとれる。そしてなんといっても、軽やかな音。天空を舞うような、ヴァイオリンである。
パールマンといえば、松脂が飛び散るような中低音の音が今まで印象的だったが、今日のリサイタルでは、高音の軽やかさが特長だと思った。ホールの音響のよさに相俟って、それはアゲハ蝶の飛翔のように自由だった。

名曲集は、チャイコフスキー、ドタイエ、ガーシュインなど。
ドタイエでは、ラスト近くで弓を上下させているにも関わらず、音が途切れないという至芸を聴かせてくれた。

アンコールは、バッティーニの「妖精の踊り」。アンコール・ピースには最適の曲。パールマンの技はここでも軽妙洒脱。テクニックに衰えなし。

ピアノのシルヴァは、音量のバランスといい、粒だった音といい、合わせるタイミングといい、文句のつけようがない。この人は、かなりの腕前だ。ただものじゃない。

パールマンには、芸術家というよりはヴァイオリン弾きという称号がふさわしい。これは、最大の褒め言葉。




イツァーク・パールマン(ヴァイオリン)
ロハン・デ・シルヴァ(ピアノ)



2013年10月6日、東京、サントリー・ホールにて。









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木こりの薪割り競争。















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Comment

グリーグのヴァイオリンソナタ - yoshimi

こんにちは。
パールマンは随分お年を召したようですが、健在で何より。明るい音色は以前と全然変わっていないようですね。
”クレーメルには決してないものが、パールマンの天性の音色と音楽の明るさ”という批評を読んだことがありますが、全くその通り。
ヴァイオリンの奏法は全くわからないのですが、
高低音の音質が以前と違うのは、弦を押さえる力が変わってきたのかもしれませんね。

グリーグのヴァイオリン・ソナタ第3番はいい曲ですね。
3曲中、この第3番が一番よく演奏されているのではないかと思います。
第1楽章はパッショネイトで、時にラフマニノフを聴いている気分がします。第3楽章は民謡風ですね。
緩徐楽章は暖炉の燃えている静かな北欧の夜...みたいなイメージがします(途中で激情的になっていきますが)。 ピアノの「叙情小曲集」の世界を連想しました。
それに、グリーグが1曲しか書かなかったチェロ・ソナタに作風と構成が似てます。

参考までに、チェロソナタのYoutubeの音源があります。
これは第2楽章(ロストロポーヴィチとリヒテル)です。
http://www.youtube.com/watch?v=PH1yz4IPkYo
2013.10.07 Mon 19:25 URL [ Edit ]

大変に印象深い。 - 管理人:芳野達司

yoshimiさん、こんにちは。

グリーグのヴァイオリンソナタは、昨日youtubeで初めて聴いたのです。グリーグらしい、キリッとしまった旋律が印象的でしたが、1回しか聴いていなかったのでよくわからなかったのです。
パールマンの実演を聴いて、この曲の面白さを思い知りました。
ご指摘のように、1楽章は熱情的、2楽章はしっとりとしたメロディーがあまりに美しい、終楽章はリズムが効いています。この曲は、もっと弾かれてもいいように思いますね。

パールマンは健在でした。今世紀に入ってからろくに聴いていなかったし、話にも聴いていなかったので状態が心配でしたが杞憂に終わりました。
技術は若いころのまま、それに軽やかさを身につけ、音を縦横無尽にホールを埋め尽くしました。
問答無用に素晴らしいヴァイオリンでした。

ロストロとリヒテルのグリーグ、2楽章を今聴いています。
これもいいですね。なんとも言えない安らぎがある。素晴らしい曲と演奏です。ありがとうございます。
2013.10.07 21:36
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