ショルティ指揮ウイーン・フィルによる、ワーグナー「タンホイザー(パリ版)」を聴く。
これは、1970年の録音。ショルティがシカゴ交響楽団の音楽監督に就任した時期とほぼ重なる。それは、ショルティのスタイルが少しずつ変わっていく転換期でもある。
四角張っていて、いきり立つショルティのスタイルと、デッカの不自然なまでのステレオ効果が随所に聴くことができ、良くも悪くも時代を感じないわけにいかない。
クリスタ・ルートヴィヒは好きな歌手のひとり、というよりもメゾ・ソプラノとして最高クラスの歌い手だと思うが、このディスクではあまり長所を発揮できていないように思う。ヴェーヌスとしては知的すぎ、妖艶さにかける。オペラをやって、なおかつシューベルトのリートなどを歌う歌手は、演奏者として尊敬の念をいだかないわけにはいかない。このルートヴィヒしかり、ポップしかり、アメリングしかり、ファスベンダーしかり。ただ、ここでは、見事な歌唱ではあるものの、役のいやらしさに徹し切れていないように感じる。折り目正しい、清楚なヴェーヌスブルク。
一方、この録音が実質的に初のメジャー主役になったという、ルネ・コロはいい。若々しく、瑞々しい。華がある。
ヴォルフラムのブラウンは普通か。出番は多いが、これといって感服するような場面はない。悪くはないが、印象に残らない。
全体の印象は、ショルティの引き締まった音楽作りに尽きる。ウイーン・フィルをしごきにしごいて(?)、筋肉質でパワフルな音楽を聴かせる。
色彩豊かで、トルクが大きい。
あと、合唱は、大人・子供共によい。さきに聴いた「マイスタージンガー」もそうであったが、コーラスの安定した力量は、ショルティのワーグナー・チクルスの根幹をなすものと思われる。
タンホイザー:ルネ・コロ
ヴェーヌス:クリスタ・ルートヴィヒ
ヘルマン:ハンス・ゾーティン
ヴォルフラム:ヴィクター・ブラウン
ヴァルター:ヴェルナー・ホルヴェーク
ビテロルフ:マンフレート・ユングヴィルト
エリーザベト:ヘルガ・デルネシュ、他
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
ウィーン少年合唱団
合唱指揮:ヴィルヘルム・ピッツ、ノルベルト・バラチュ
1970年10月、ウイーン、ウィーン・ゾフィエンザールでの録音。
百合。
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