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フィルクスニーのヤナーチェク「1905年10月1日、街頭より」

2008.10.26 - ヤナーチェク

janacek

ヤナーチェク ピアノ曲集 ルドルフ・フィルクスニー(Pf)


内田樹の「疲れすぎて眠れぬ夜のために」を読む。
独自の身体文化論をおりまぜたエッセイ集。女性向けの読み物もいくつかあるがそれも面白く読んだ。
特に興味深かったのは、日本人の倫理観は、型からはいっているという説だ。
『外形的な「型」を身体に刷り込んでゆくうちに、「型」は身体の中に食い込むように内面化し、ついには誰も見ていない場面でさえ、その「型」のせいで、人間は心の欲望のままにふるまうことができなくなる』。
そう、浮浪雲もそう言っていた。学校でいじめられなくなるようにするにはどうしたらいいか、と息子に相談されて、こう答えている。
心は形にはまります。背を伸ばし胸を張ってアゴを引きなさい、と。
そういうシーンを思い出した。


ヤナーチェクのソナタ、この演奏だと12分くらいなので小説でいえば中編にあたるだろうか。20世紀のピアノ音楽のなかで好きな曲のひとつである。
この曲を最初に聴いたのは、シフのピアノでだった。10年以上前の東京公演である。当時はこの曲をまったく知らず、ただ漫然と聴いているだけであった。その後何回かCDを聴いてみたが、今日久しぶりに聴いてみると、シフの演奏が不思議とリアルに蘇ってくる。
とはいっても演奏の細部ではなく、どんな響きが会場にコダマしていたかとか、どんな空気が流れていたか、といった漠然としたものであるが。
この曲は大きく2つの楽章に分かれている。
前半は、悲劇的ともいえる暗い情念をたたえた感情の起伏の激しい音楽。
後半は、割り切れない感情がじわじわと底に落ちていくような、哀感の漂うゆっくりとした音楽。
シフの演奏は、ドラマティックなものだったと記憶する。1楽章で、大きく盛り上がった直後のルフトパウゼに凍りついたのじゃなかったかと。
もしかしたら記憶違いかもしれない。激しい演奏だったと思いたいのかもしれない。
今日聴いているフィルクスニーのピアノは、とても澄んでいる。冴え渡る高音から、広がりがあってつややかな低音まで、響きだけでもごちそうである。
すばらしい技術である。
一見、肌触りが冷たく、音楽の進行もじつに冷静な運びであるのでたんたんとしているように感じたが、徐々に重苦しさが胸にのしかかってくる。冷静な佇まいのなかでこそ、むしろ悲劇性が浮かび上がってくる
ようだ。
落ち着いた弾きぶりのなかに、熱い思いが垣間見える演奏。


1971年5月、ミュンヘンでの録音。

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Comment

無題 - rudolf2006

吉田さま お早うございます
上で挙げられている本、読んだことがありません、爆〜。
「型から入っていく」というところ、歌舞伎の演技法にも似通ったところがありますよね〜。道徳といったところで、言葉で教えることができることは数少ないでしょうから(「国を敬え」などと言ったところで何の意味もないかと思っています)、まずは型から入るというのは、確かにそうかもしれませんね〜。

ヤナーチェックの音楽は、まだこれからの分野です。
オペラを2曲ほど聴いていますが、まだまだです。

フィルクスニーは、ドボルジャークのピアノ五重奏曲でしょうか、それで聴いたことがあります〜。
やーナーチェックの演奏も聴いてみたいものですが〜。

ミ(`w´彡)
2008.10.27 Mon 07:55 URL [ Edit ]

Re:rudolf2006さん、おはようございます。 - 管理人:芳野達司

コメントありがとうございます。

「型から入っていく」、納得しました。日本の武道や芸能など、そういうものが基点になっているのでしょうか。
最近は脳が話題になっていますが、身体も大事なのですねえ。

ヤナーチェックのピアノ音楽は面白いです。フィルクスニーの演奏が端正でよいものです。
このヒトのオペラもいいものだそうですね。「イエヌーファ」や「利口な女狐」など聴いてみたいものです。
聴きたい曲がたまるいっぽうでなかなか消化できません^^
2008.10.27 09:57

無題 - 木曽のあばら屋

こんにちは。
内田樹のエッセイは、独特の視点が魅力的で、
読んでいて目からウロコがぼろぼろ落ちる気がしますね。
本当にアタマの良いヒトだなあと思います。
性格はちょっと悪そうだけど(?)。
2008.10.27 Mon 20:48 URL [ Edit ]

Re:木曽のあばら屋さん、こんにちは。 - 管理人:芳野達司

コメントありがとうございます。

内田樹、今もっとも気になる著作家のひとりです。
村上春樹についても書いているらしく、まだ読んでいませんが、どことなく村上のエッセイにも似たところがあるように思いました。

女子大の教授ということからか、わりと女性向けの作品が多いのですが、考え方にはおおいに共感するところがあります。
今が旬の評論家(哲学者)のひとりなのでしょう。
性格はどうなのでしょうネ。
2008.10.27 21:53
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