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アンチェルのマーラー「交響曲第1番"巨人"」

2009.02.28 - マーラー

mahler

マーラー「巨人」 アンチェル指揮チェコ・フィル


谷沢永一の「人間通」を読む。
96編からなる、エッセイ集。
世間に対する深い洞察が、切れのいい筆さばきで書かれている。
ことに印象的なのは『可愛気』という一編。
『才能も智恵も努力も業績も身持ちも忠誠も、すべてを引っくるめたところで、ただ可愛げがあるというだけの奴には叶わない。人は実績に基づいてではなく性格によって評価される』。
言われてみれば思い当たることがいくつかある。相手の気分がよくなるということが処世術だ。社会とは他人のことだというからね。
付録の『人間通になるための百冊』で、ジョークの祭典ともいうべき開高健の『水の上を歩く?』が薦められているのはうれしい。


チェコ・フィルは、初めて生で聴いた外来のオーケストラだ。確か79年か80年のこと。
とはいえ、ちゃんとしたコンサートではなく、リハーサルの見学という形だった。場所は東京文化会館、指揮はノイマン、マーラーの『巨人』の1楽章を練習していたのだった。
その時の感動を今でも覚えている。なんという柔らかい音!豊満な響き!それは、いままでいくつか聴いていた東京のオーケストラとは似て非なるものだった。一流と言われるオーケストラというものは、こんなにいいものなんだ。
一時間そこそこのリハーサルは夢のように過ぎ去った。その夜に行われる本公演もついでに頂こうかと、トイレに忍び込んだものの、巡回の係員にあえなく見つかって、つまみ出されたことは言うまでもない。
チェコ・フィルのきちんとした生の演奏を聴くのは、それから約25年を待つことになる。
というわけで、チェコ・フィルの『巨人』には多少の思い入れがあるのだが、このオケによるCDを聴くのは、アンチェル盤が初めてである。

整然とした演奏である。過多な感情移入を注意深く廃した、どちらかと言えば淡泊なスタイルといえる。
クラリネットやオーボエなど木管が、まるで目前にいるかのようなリアルな音で迫ってくる。柔らかく、コクのあるいい音だ。その反面、弦は軽く聞こえる。録音の加減か、実際に編成が小さいのか。
軽いぶん、小回りが利いていて、室内楽的精妙さを味わうことができる。ラストまで淡々と、気負いなく進んでゆき、最後は、シンバルと大太鼓の切れのいい捌きでさわやかに幕を閉じる。

1966年1月、プラハでの録音。
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Comment

無題 - rudolf2006

吉田さま こんにちは

谷沢永一さんの本、昔は割と読んだのですが、最近はご無沙汰しています。私の考え方に変化が出てきたのにも影響しているかと思いますが〜。
確かに、「可愛げ」というのは大事かもしれませんね〜。性格で判断される、これって意外に厳しい言葉ですよね〜。

アンチェル・チェコフィルは、ノイマン・チェコフィルよりも懐かしい気がしますね。スプラフォンの廉価盤が出ていたような気がするのですが、マーラーは聴いたことがありません。
マーラーはスロバキアのモラヴィア地方の出身ではなかったでしょうか〜。チェコのプラハはヴィーンに近いのに、音楽は相当に違いますよね〜。チェコ・フィルは、いつ聴いても美しい音がしますよね、独特の〜。

ミ(`w´彡)
2009.02.28 Sat 11:43 URL [ Edit ]

Re:rudolf2006さん、こんにちは。 - 管理人:芳野達司

いつもコメントをありがとうございます。

「人間通」はちょっとしたベストセラーになったとのことですが、最近知りました。なかなか含蓄深い本です。谷沢の他の本も読もうと思っています。
「可愛げ」というのは大事かもしれません。才能によるところ多いので、確かに厳しい言葉ですねー。

昨年はアンチェルの生誕100年だったとかで、いくつかCDが出ています。今年になって知りました^^
スプラフォンの録音もなかなかよいので、チェコ・フィルの柔らかい音を楽しめました。
チェコ・フィルはマーラーを伝統的に長くやっているオケですが、ほとんど聴いたことがなかったです(ノイマンの巨人の練習以外)。このアンチェル盤はいいものでした。
2009.02.28 17:03
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