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"この胸に深々と突き刺さる矢を抜け"、アバド、ベートーヴェン"5番"

2012.06.22 - ベートーヴェン

bee

ベートーヴェン 交響曲 第5番 アバド指揮ウイーン・フィル



白石一文の「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」を読む。
主人公は胃がんを患った大手出版社の編集長。ネットカフェ難民や代議士汚職の取材、また自身の同僚の妻との不倫を通じて、経済とセックスと人生について語りつくす。
少し長いが、主人公がネットカフェ難民を批判する部下を宥めるセリフを引用しよう。

「同一労働同一賃金というのは、労働者たちが長い歴史の中で勝ち取ってきた最も重要な権利だってことを忘れないで欲しい。使用者および管理職と見做されない一般の被用者は、同じ労働をすれば同じ賃金を得る基本的な権利を持っている。つまり、現在の正規社員と非正規社員とのあいだの賃金格差は、彼らが同じ労働をしている限りはまったく不当なものということになる。アルバイトだろうがパートだろうが、季節工だろうが、そんな呼び名は関係ないんだ。小劇団で活動しているフリーターが、たとえ好んでそういう働き方を選んでいたとしても、だからといって同じ作業をしているのに隣の正社員よりずっと少ない賃金しか支払われていなければ、それを『あいつは好き勝手な夢を追っていて、どうせこの仕事は腰掛けだと思ってるんだから構わないさ』と正当化するのは許されないってことだ」。

ラストは少し意外だが、サービス過剰感がある。とっ散らかったまま終わらせてもよかったように思う。



 









アバドによるベートーヴェン「5番」を聴く。
彼がウイーン・フィルを振ったベートーヴェンのDG録音は総じて退屈だが、この5番は多少いい。

ウイーン・フィルの音は、このオーケストラに期待するほどの品質ではないものの、適度な柔らかさと重量感はある。
全体的に中庸なテンポをとっており、新味はない。ある程度のレベルのオーケストラをある程度の指揮者が振れば、このくらいの演奏はできるような気がする。例えば、メニューインが逆立ちしてベルリン・フィルを振ってもこのくらいはいける(昔、実際にやっていた)。しかし逆にいえば、安心して聴いていられるということはあるし、そういったレベルの演奏が安定して供給できているという評価はまあ可能だ。
長所は、ピアノ(ピアニッシモ?)における音の透徹感。1楽章の展開部の静かなところ、それと3楽章の終わりのあたり、キリリと締まった弦のうえに木管やティンパニが重なるところ、ここらへんは美しい。焦点をあてて丁寧な訓練を重ねたのだろう。

アバドという指揮者のシンフォニーを聴くのなら、ベートーヴェンやブラームスよりも、マーラーだろう。改めてそう思う。


1987年10月、ウイーン、ムジークフェライン大ホールでの録音。

 
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Comment

無題 - Yuniko

アバドは、有名な曲の演奏は概しておもしろくないです。ベートーヴェンしかりブラームスしかり(どちらもジャケットは美しくとても上品ですが)。
ニューイヤーコンサートにも2度登場しましたが、2度とも生真面目さが強く出すぎた演奏で、ウィンナ・ワルツらしい流麗さに欠けると感じました。
管理人様があげられているマーラーは、実は私はマーラーは苦手なのですが、アバドのマーラーはよさそうです。
アバドの演奏で、「これはいい!」と感じたのが3つあります。一つはミラノ・スカラ座と録音したヴェルディのレクイエム。壮大で陰影の濃いカラヤンの演奏よりも、祈りや激情、世界の終わりへの恐れなどがストレートに伝わる演奏でした。
二つ目はウィーン国立歌劇場とのベルクの「ヴォツェック」。12音技法を駆使して書かれたオペラなのですが、アバドの手にかかると難解でも何でもなく、登場人物たちの異常さとそこからもたらされる悲劇が、音を通してひしひしと伝わりました。CD、LDが出ていたのですが、その後再発売がないままで、大変残念です。
三つ目は1988年の「ウィーン・モデルン」。ウィーンpoが演奏する現代音楽集なのですが、何の気なしにつけたFMで流れたこの演奏にくぎ付けになり、さっそくCD点に直行して衝動買いしました。感想は「ヴォツェック」と同じく、難解なはずの現代音楽をきちんと音楽として聞かせてくれます。
アバドは、有名曲よりもこうしたマイナーな曲、お国もの(イタリア)がずっとよいように思います。
2012.07.03 Tue 22:17 [ Edit ]

Yunikoさん、毎度ありがとうございます。 - 管理人:芳野達司

>アバドは、有名な曲の演奏は概しておもしろくないです。ベートーヴェンしかりブラームスしかり(どちらもジャケットは美しくとても上品ですが)。

同感です。ジャケットは煌びやかでいいんですけどね。

ミラノ・スカラ座との録音したヴェルディ/レクイエムはいいですね。
それとウィーン国立歌劇場とのベルクの「ヴォツェック」も。これは、日本公演を観に行ったんです。CDと同じグルントヘーバーがタイトルロールを演じていました。内容が内容なだけにこういう言い方は適切がどうかわかりませんが、楽しいひと時でした。
「ウィーン・モデルン」は聴いていません。面白そうですね。シェーンベルクの「ワルシャワの生き残り」は持っているのですが。

今のところ、アバドはマーラーとヴェルディがいいと感じています。
2012.07.04 16:05
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