忍者ブログ

ショルティのヘンデル「メサイア」

2008.09.28 - ヘンデル

handel

ヘンデル「メサイア」 ショルティ指揮シカゴ饗・合唱団


ポール・ニューマンが逝去した。
昔の作品はまだ観ていないけど、「明日に向かって撃て」あたりから以降の作品はわりと観ていたのじゃないかという気がする。
粋でとぼけた味わいのある「スティング」や、あまりおいしい役どころではなかった「タワーリング・インフェルノ」、怒涛の感動まっしぐらの「ノーバディーズ・フール」、板についた悪役が魅力だった「ロード・トゥ・パーディション」などが印象的だ。
いつまでも若いと思っていても、もう83歳だったのだ。
70歳かそこらでカーレースに参加したという記事を、ついこないだ読んだ気がする。こちらもトシをとるわけだ。
いろいろ楽しませてくれて感謝。

newman



ショルティの「メサイア」、立ち上がりがあまりよくない。弦はつんのめりがちで合奏の荒いところが散見されるし、バスのグウィン・ハウエルも音程が安定しない。
呼吸が浅いためにせっかちなところがあって、落ち着きがない。
一時は「おいおいショルティ、だいじょうぶか!」と心配したけれど、聴き進んで10分くらいたってくると、だんだんピシッとしまってくる。
エンジンが温まりだすと、もう止まらない。
安定感がどんどん増してきて、それはもう揺るぎのない堅固なものになる。
まず、ヴァイオリンがすばらしい。水がしたたるような清冽さと、まばゆい輝かしさがある。
それから合唱。緻密さではちょっと類がないかもしれない。細心な準備をもって入念に磨き上げられている。
それは同時に、奥行きや重厚さも兼ね備えており、それは全曲中の白眉のひとつ「そしてレビの子孫を清め」で全開になる。「ひとりのみどりごがわれわれのために生まれた」における慎重さと力強さは感動的である。
弦を中心としたオケと音色がじつによくあっているのは、専属の合唱団だからなのかもしれないがそれにしてもすばらしい溶け具合。このオケあっての、あるいはこの合唱団あっての演奏だ。
ショルティの意志の強さもさることながら、合唱指揮のマーガレット・ヒリスの手腕によるところも大きいとみた。
歌手は、キリ・テ・カナワを除いては、あまりこの管弦楽・合唱に溶け込んだ音色ではないように思う。
ハウエルのバスは恰幅がよく美声だし、アンヌ・ゲヴァングのアルトはたっぷりした声が豪華だし、テノールのキース・ルイスは悲しみを漂わせながら輝かしい声を放っているが、それぞれ魅力的でありながら、ちょっと浮いた感じがする。キレのいいオケ・合唱とは、少し毛色が異なるように思われるのだ。
その中で、カナワの歌は清楚でリリカルでありながら、ほどよく引き締まっていて、うまく全体に溶け込んでいる。ソロとしても個性的で、かつアンサンブルとしても優れた歌唱である。
音楽は、第2部から徐々に内省的になってゆくが、「ハレルヤ」からまた賑やかになってくる。
ここでショルティはティンパニをドカドカ鳴らしているが、自然に全体が盛り上がってゆく感じなので、浮いた感じではなくとても効果的になっている。かなりパワフルな演奏だけど全体を通してつじつまがあうというか、うまく流れに乗ったもの。当時の国王はこの部分を聴いて思わず立ち上がったというが、それはこういう演奏だったのだろうと夢想する。
このあたりから、シカゴのパワーが炸裂してくる。
「ラッパが響いて、死は朽ちない者によみがえらされ」のトランペットは強烈。華やかな黄金色の音楽であり、圧倒的な高揚感をもたらされる。これはハーセスの名人芸。
終曲「その血によって、神のために、ほふられた子羊こそは」では、トランペットとティンパニが華々しく打ち上げられてすごく盛り上がる。単純にして精密なフーガによって壮大に曲が閉じられる。

CDのオビによれば、これはヘンデルの生誕300年のために満を持した録音であり、版の決定には30歳年下のホグウッドにアドバイスを求めたとある。結果、トービン校訂版を採用している。
確かにメモリアルにふさわしい充実の演奏だ。


1984年10月、シカゴでの録音。

PR
   Comment(1)   TrackBack()    ▲ENTRY-TOP

Comment

無題 - rudolf2006

吉田さま こんばんは

ポール・ニューマンが亡くなりましたね;
一時代を作った名優だと思っています。
私が若い頃映画で観た俳優はどんどん亡くなっていっています。それだけこちらも年を取っているのですが、やはり、寂しい気もします。

仕事の帰り道に、この「メサイア」の1枚目を聴きながら帰ってきました。キリ・テ・カナワさんが歌い出すと、音楽が締まり、格段に素晴らしい音楽になるように思いました。私も。去年のクリスマスの頃に、このショルティ盤の「メサイア」を取り上げていました。
今日、車の中で聴いていると、弦楽器が上手いな、と思いました。きっと、少人数にしていると思うのですが〜。
ハーセスさんの活躍するところまでは、聴いていませんが、オケストラは上手いですね、さすがに〜。
ピリオド奏法、何するものぞ、といったところがありますよね〜。

ミ(`w´彡)

2008.09.29 Mon 20:45 URL [ Edit ]

Re:rudolf2006さん、こんにちは。 - 管理人:芳野達司

コメントありがとうございます。

ポール・ニューマン、まさに一時代を作った名優ですね。
好きな俳優のひとりだったので、寂しいです。

ショルティの「メサイア」、ようやく聴きました。rudolf2006さんの記事を読んで以来、聴きたいと思っていました。
オケと合唱が予想以上にいいです。あと、キリ・テ・カナワがソロのなかでダントツにすばらしいです。

その後、リヒター盤とC・デイヴィス盤を聴きました。これらもいずれ記事に書こうと思います。
2008.09.30 12:45
コメントタイトル:
投稿者名:
Mail:
URL:
投稿内容:
Password: ※1
Secret: 管理者にだけ表示を許可する※2
※1 パスワードを設定するとご自分が投稿した記事を編集することができます。
※2 チェックを入れると管理者のみが見ることのできるメッセージが送れます。

TrackBack

この記事へのトラックバック
TrackBackURL
  →
カレンダー
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
ポチっとお願いします(´_`\)  ↓ ↓ ↓
最新コメント
カッチェン、フロマン、ブラームス"ピアノ協奏曲2番" from:Yoshimi
-11/16(Thu) -
フルニエ、フィルクスニー、ブラームス"1番" from:老究の散策クラシック限定篇
-03/18(Sat) -
ゼルキン、オーマンディ、ブラームス"1番" from:老究の散策クラシック限定篇
-02/20(Mon) -
ゼルキン、オーマンディ、ブラームス"1番" from:“スケルツォ倶楽部”発起人
-02/20(Mon) -
古典四重奏団、ベートーヴェン、15,13"大フーガ" from:老究の散策クラシック限定篇
-10/30(Sun) -
最新TB
カテゴリー