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"軟弱者の言い分"、キーシン、ブラームス"3番"

2013.05.25 - ブラームス

BR

ブラームス ピアノ・ソナタ第3番 エフゲニー・キーシン(Pf)




小谷野敦の「軟弱者の言い分」を読む。

相変わらずの愚痴と悪口のオンパレードである。それでも読んでいて嫌にならないのは、彼に共感するところが多いからである。
彼の人生観らしきもの(というか不満)は、本書のまえがきに集約されていると思う。

「兼好法師の『徒然草』には、「友に持ちたくない者」として、「体が丈夫で病気のない者」が挙げられている。まったくそうだ、と私などは思うのだが、兼好以外にこういうことを言った人を聞かない」。

世の中の理屈は、体の上部な人間の論理でできている。彼は人生における大きな不条理をここに示している。
私も深く同感、というほどではないにせよ、言い分はよくわかるのである。よくわかる。

後半の文芸時評も面白い。読みたい本が増えた。













エフゲニー・キーシンでブラームスのピアノ・ソナタ3番を聴く。

重すぎず軽すぎず、バランスのよいブラームス。テンポは中庸で、王道を行く演奏といえる。適度に残響を取り入れた録音もいい。
左手と右手を微妙にすらして(キーシンが日本デビュー時からやっていたクセ、というか手法)音楽に抑揚と膨らみをもたせている。ことに2楽章が顕著。ドラタティックであり、とても効果的。

3楽章。ライナーによれば、ジェームス・フネカーはこれを「ブラームスの書いた最高のスケルツォ」としているらしい。フネカーって誰だ、という疑問はありつつ、私も同感である。4番の交響曲や2番のピアノ協奏曲も素晴らしいが、パッションの燃焼度の高さにおいて、このソナタをとりたい。この演奏は、熱い情熱に溢れていて、幻想的。雨の降りしきる都会の深夜の佇まい。しかも、どこを叩いても揺るぎないような堅牢さも持ち合わせている。

全体を通して、キーシンのセンスが満遍なく冴えわたっている。いい演奏だ。


2001年12月、フライブルク、SWRスタジオでの録音。












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Comment

若い頃のキーシンのブラームス - yoshimi

こんにちは。
キーシンのCDはほとんど持っていますが、好きなのは、ショパンよりも、バッハ・リストのトランスクリプション、ブラームス、ロシアものの方ですね。

キーシンのブラームスは、技巧の切れよく安定感がありますし、過剰・情緒的ではないけれど情感豊かで爽やかです。
この曲に限らず、キーシンの若い頃の演奏を聴いていると、今まで聴いていた曲が、霧がさっと晴れるかのように鮮明になり、瑞々しい新鮮さを感じたものでした。

このCDでは、ハンガリー舞曲のピアノソロ版をよく聴きました。
それほど難しい曲のようには聴こえないのですが、実際のところソロバージョンは速いテンポで弾くのがかなり難しいので、録音も良い演奏も、両方とも少ないです。(この種の”難しく聴こえない”曲というのは、ピアニストは敬遠するそうです)
私が良い演奏だと思ったものといえば、キーシンとカッチェンくらいでした。
2013.05.26 Sun 10:38 URL [ Edit ]

もうすっかり大家の風格があります - 管理人:芳野達司

yoshimiさん、こんにちは。

>キーシンのブラームスは、技巧の切れよく安定感がありますし、過剰・情緒的ではないけれど情感豊かで爽やかです。

仰る通り、実にさわやかです。ブラームスのこの曲は若者独特(?)の陰鬱さが濃い曲だと思うのですが、キーシンは淡い情感を醸し出しつつ後味のさわやかなピアノを聴かせてくれます。
ハンガリー舞曲もよいですね。この曲は連弾で弾かれますよね。それをソロでやるのだから難しいのでしょうね。キーシンの演奏で聴くと、その難しさがわかりづらい。楽々と弾いている。効果が狙いにくいという意味では、普通のピアニストはあまりやりたくない曲なのでしょうね。
ブラームスって、そういう曲が多いように思います。
2013.05.26 16:38
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