F=ディースカウのバリトンとバレンボイムのピアノによる、シューベルト「冬の旅」を久しぶりに聴きました(1979年1月、ベルリンでの録音)。
この演奏を最初に触れたのは、図書館でLPを借りてのこと。それまでは「冬の旅」をディースカウの歌でしかほとんど知らなかったのだけど、ムーアの伴奏によるものよりさらに素晴らしいと感じたことをよく覚えています。
それから約40年。池袋のユニオンで状態のいいものを発見し入手、満を持して(?)いま聴いています。
壮年期のディースカウは声がピンと張っているし、流れるような抑揚は心地よく、劇的緊張感に溢れてもいる。隙が見当たらないことはいつも通りだけど、ここでの彼は豪胆さと緻密さとを絶妙なバランスで併せ持っていて、それが心の襞に届くような深みに達していると感じないではいられません。
バレンボイムは、ムーアに比べたら主張が強いけど、あざとさは皆無。絶唱に負けない強靭さを持っていて、これも見事だと思います。
こんな音楽を聴くことができて、この連休は満足。
喜多尾道冬さんはライナー・ノートで、産業革命の進展によって貴族階級が没落し市民層が政治や経済の実権を握ることにより愛が個人的・内面的なものと深くかかわってくる、歌のジャンルにおいての嚆矢のひとつがベートーヴェンの「はるかな恋人に」であり、それを発展させたのがシューベルトだ、と云うようなことを書いています。
その言葉も待つまでもなく、シューベルトはいつも親密。にこやかに機嫌のいいときもあれば、陰鬱に沈むこともある友人。
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