シューマン「交響練習曲」 イーヴォ・ポゴレリチ(Pf)R・D・ウィングフィールド(芹澤恵訳)の「フロスト気質」を読む。
今回の話は子供が犠牲になる事件が多いため、今までのものよりも陰惨でかつシリアスな雰囲気が漂う。ヤマ勘の捜査はことごとく空振りに終わり、その間にも事件が次から次へと降りかかる惨状はいつも通り。署長のマレットの執拗な叱責は後半になるにつれぐんぐん加速して激しくなり、しっちゃかめっちゃかの大忙し状態。
これまであまり事件の被害者に対してあからさまな同情をしてこなかったフロストだが、ここでは誘拐された「ぼうず」を助けようとする熱意をみせて泣かせる。といって油断していると、この世のものとは思えない下品なジョークをぶちかまされる。
誘拐犯を執拗に追い詰めていくラストの高揚感、痺れるなあ。
芹澤の考え抜かれた翻訳のキレはここでも絶好調。この訳があっての面白さだ。
未翻訳のフロスト・シリーズは残り2作。早く読みたいと思いつつも、出たら出たでもったいなくてなかなか手が出せないかも。
ポゴレリチのシューマンは、ひとつひとつの音に対して、長さと重さと色合いを厳しく統制し尽くしたような演奏。ちょっと他では見当たらないような、繊細なピアノ。神経をピリピリと刺激する音楽であって、聴くことでストレスを感じるところは現代風であると言えるかもしれない。すごくきれいだけれども疲れる、これはポゴレリチの真剣勝負。
この演奏を聴くと、リヒテルのが牧歌的に思える。あのロシアの大家によるものは牧歌的で大らかななかにひんやりとした霊感があって、それがとても素晴らしい。それに比べると、ポゴレリチのはたっぷりと粘りを利かせたいささか異形なシューマン。
このピアニストのCDは非常に少ないが、たしかにこういう演奏は大量生産に向かないだろうな。
この演奏では遺稿が全てカットされている。あの魅力的な5番がカットされているのが残念すぎる。
1981年9月、ミュンヘン、ヘルクレスザールでの録音。
PR
フロスト・シリーズをこれまで4作読みましたが、ムラなくすべて面白いですね。登場人物のキャラが立っているところ、今回はとくにいつも登場する警官たちがいい味をだしています。
ポゴレリチ、もうけっこうなキャリアだと思いますが録音はミケランジェリなみに少ないですねえ。このディスクはベートーヴェンの32もまたすごい演奏です。これだけテンションが高いと、なかなか連投するのは難しいのでしょう。