ラヴェル ピアノ協奏曲 ジャクリーヌ・ブランカール(Pf) アンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団長嶋有の「サイドカーに犬」を読む。
小学校のときの夏休み。母親が家を出て行き、入れ替わりに見知らぬ若い女と男たちが家にやってくる。父親は男たちを率いて会社を始めたらしいが、なにをやっているのかよくわからない。
女は私たち姉弟の面倒をテキトーにしてみてくれるし、いつも部屋でマージャンをしている男たちはときどき弟をプラモデル屋につれていってくれたりする。なぜ母親がいなくなったのか判然としないが、やがて慣れてくる。
そんな夏の終わりころ、女がいるところに母親が帰ってくる。自宅で繰り広げられる修羅場。それを察知した父親は逃亡し、やがて強盗の罪で逮捕される。
ショッキングで不思議な夏休みを軽やかな筆致で描いていて、昔はよかった的な懐かしさを感じる作品である。
ラヴェルのふたつのピアノ協奏曲は、番号がついていないし同じくらいの演奏時間だしどちらもジャズ風な手法の風味があるのでまるで双子の兄弟のようだ。
どちらをとるかといわれれば、少し迷ってト長調をとるかな。題名を知らないでCDを聴いたら左手だけで弾いているとは思えないニ長調もいいけれど、ト長調の楽想の豊かさと展開の速さの魅力には抗しがたい。
いままでこの曲の演奏をいくつか聴いたけれど、これぞというCDにはまだ出会っていない。ミケランジェリとグラチス、フランソワとクリュイタンス、アルゲリッチとアバド、それぞれ有名な演奏だけれど、帯に短したすきに短しというか、スパッと腑に落ちるわけでもない。この3つに共通するのは、録音がいまひとつなこと。ことにミケランジェリのものは、録音が良ければだいぶ違う印象になるのじゃないかと思う。
じゃあどんな演奏がいいんだよ、と言われても実はよくわからない。イメージがわかない。自分にとってラヴェルのこのコンチェルトはそういう曲なのである。
このアンセルメ盤はさきにあげた演奏に肩を並べる演奏である。ことに、オーケストラがいい。管楽器がしっかり鳴っていて立体感があるし、とても色鮮やかだ。いきいきしていて鮮烈で、楽しそうに演奏していると想像する(ホントはどうかわからんが)。
オーケストラに関して言えば、いままで聴いた中ではトップクラス。ステレオならばさらにひきたっただろう。
ブランカールというピアニストは初めて聴いた。ケレン味のないオーソドックスな弾きぶりでどっしりと安定感がある。2楽章でのたっぷりとした情感はすばらしい。高貴な佇まいがある。この楽章の最高の演奏のひとつかも。ただ、両端楽章ではもう少し軽やかなスピード感があったらいいなと感じた。
アンセルメは最初の鞭の一発で勝負を決めた。
1953年6月、ジュネーヴでの録音。
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