モーツァルト「クラリネット五重奏曲」 レオポルド・ウラッハ(Cl)ウイーン・コンツェルトハウス四重奏団織田作之助の「夫婦善哉」を読む。
おいしそうなシーンが目白押し。いまでいう「B級」グルメが盛りだくさんである。冒頭を読んだだけでも一杯やりたくなる。
「路地の入口で牛蒡、蓮根、芋、三ツ葉、蒟蒻、紅生姜、鯣、鰯など一銭天婦羅を揚げて商っている種吉は借金取の姿が見えると、下向いてにわかに饂飩粉をこねる真似した」
スルメのてんぷらなんて食べたことはないが、なんだかうまそうである。
甲斐性のない旦那が嫁を連れ歩くシーンもたいへんそそる。
「よくて高津の湯豆腐屋、下は夜店のドテ焼き、粕饅頭から、戎橋筋そごう横「しる市」のどじょう汁と皮鯨汁、道頓堀相生橋東詰「出雲屋」のまむし、日本橋「たこ梅」のたこ、法善寺境内「正弁丹吾亭」の関東煮、千日前常盤座横「寿司捨」の鉄火巻と鯛の皮の酢味噌、その向い「だるまや」のかやく飯と粕じるなどで、何れも銭のかからぬいわば下手もの料理ばかりであった」
このあと、重要なシーンで有名な「自由軒」のライスカレーも登場する。
B級万歳。
ウラッハとウイーンのモーツァルトは重厚だ。
もったりとした録音も当時のウイーン風なのだろうか、これも拍車をかけているようだ。
ウラッハのクラリネットは、21世紀の今ではあまり耳にすることのない独特の味がある。やや重くて野太とい音色は、ひとつの楽器から出てくる音としては破格に厚い響きであるように感じる。
それはもうブラームスにはじつにぴったりといった風情なのであるが、こういう感触のモーツァルトもまた一興でありユニークで面白い。
ウイーン・コンツェルトハウスの演奏も、じつにまったりとしている。一杯飲んだら胃が痛くなりそうなウインナ・コーヒーのように、強烈に甘くて濃い。モーツァルトによく聴くことのできる軽快さというものは、ここでは手控えられている。
だから、速い曲よりもゆっくりとした楽章に合っていると思う。
2楽章のラルゲット。いろいろなものをあきらめながら長く生きてきて、さすがにすこしくたびれて一段落しているような演奏。
仕事の疲れが残る土曜日にキク演奏である。
1956年の録音。
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