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"家日和"、ギレリス、ベートーヴェン"30番"

2014.02.15 - ベートーヴェン

ma




奥田英朗の「家日和」を読む。
これは、夫婦を扱った6つの短編集。
インターネットのオークションにハマッて、夫の宝物を次々と出品する妻、会社が倒産して専業主夫に勤しむ旦那、内職の営業マンを気に入って毎晩淫夢を見る妻。。
なかでも面白かったのは、妻と別居することになり、仕方がないのでマンション購入のための貯蓄をAV機器の購入やインテリア用品につぎ込む夫の話。

結婚してからは自分の部屋を持てなかったため、ここぞとばかりに高価なステレオ装置やホームシアターセットやソファを購入する。その話を聞いた会社の同僚が、まるで一人暮らしの学生のアパートに溜まるがごとく、わらわらと集まる。そして、彼らが若いころに聴いたり観たりしたレコードやDVDをかけて感涙にむせぶ。

居酒屋でひとり読みながら、笑ってしまった。
変人かと思われたかも。









ギレリスのピアノで、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ30番を聴く。

ギレリスのベートーヴェンを、後期に関しては「ハンマークラヴィーア」しか聴いたことがなかった。あれはとても力強く、硬質でがっしりした演奏だった。
それに比べるとこの30番は、力強さだけでは一本調子になってしまう。剛にたいする柔。こうした曲を、ギレリスがどう弾くか楽しみだった。

冒頭から、クッキリと澄んだ明るい色の音。響きは重すぎず軽すぎず、いい塩梅。
2楽章は、この曲のなかでは比較的「剛」だが、ときおりスタッカートを利かせて、起伏のある音楽を形作っている。
終楽章の変奏曲は、いかにもベートーヴェンの後期の匂いがぷんぷんする思索的な音楽。ギレリスは、たっぷりとしたテンポでもって、慈しむように奏でる。音はやや硬めのアルデンテ。

変奏1は、厚みがあってスケールが大きい。
変奏2は、多彩でかつ不思議なユーモア感がある。
変奏3は、毅然としている。決して焦らない。やはり大きい。
変奏4は、小さなテンポと強弱の変化がとても効果的。考え抜かれた演奏だという気がする。この部分を聴くだけでも、このディスクを聴く価値はある。
変奏5は、昔に言われた「鋼鉄のピアニズム」の一端を垣間見ることができる。
変奏6も、丁寧。ひとつひとつの音に生命が宿っているかのよう。

録音はやや硬いため最上とは言えないが、ヘッドフォンで聴くと柔らかさが増すような気がする。


1985年8,9月、ベルリンでの録音。








ma
 

インド洋。










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Comment

ギレリスの後期ピアノ・ソナタ - yoshimi

こんにちは。
ギレリスのベートーヴェンのピアノ・ソナタ録音は、29番までと、30番&31番とでは、演奏が大きく変化していますね。
曲想の違いももちろんありますが、それ以上に音色やタッチ、表現などの違いが大きいように感じます。
どうしてそうなのか理由はわかりませんが..。

特に、第31番が大変素晴らしく、祈りのような澄み切った静謐さと深みがあり、こういう演奏は他のどのピアニストもできないでしょう。
第32番は急逝したために未録ですが、もし録音していたら、凄い演奏になっていたに違いありません。
2014.02.15 Sat 13:16 URL [ Edit ]

やはりそうですか。 - 管理人:芳野達司

yoshimiさん、こんにちは。
ギレリスの29番はもちろん悪くはないものの、なにかが足りないと感じているのです。決して剛直なだけの演奏ではないにもかかわらず、もうひと味がほしい、といったわがままな気持ちがあります。
30番は音色やタッチが細やかです。これは素晴らしいと思いました。
やはり31番はいいですか。

>特に、第31番が大変素晴らしく、祈りのような澄み切った静謐さと深みがあり、こういう演奏は他のどのピアニストもできないでしょう。

聴かずにはいられません。いずれ、聴きます。
2014.02.15 17:17

ギレリスの31番ソナタ - yoshimi

こんばんは。
ギレリスの31番ソナタは、Youtubeで聴けます。
改めて聴きましたが、やはり素晴らしいです。
お時間のあるときに、ぜひ聴いてみてください。
http://www.youtube.com/watch?v=MGUsaSZazEw
2014.02.15 Sat 22:55 URL [ Edit ]

恐れ入ります。 - 管理人:芳野達司

yoshimiさん、こんばんは。
ヒマなので、早速聴きました。
ゆったりとした冒頭から、いいと感じました。タッチが柔らかくて、弱中音に細心の注意を払っているあたりの方向性は30番と似ています。コンマ何秒かの、微妙な間がいいです。
落ち着き払ったフーガは圧巻ですね!
この録音が85年、29番は82年。この3年弱の間になにかがあったとしか思えないような代わりぶりだと感じました。

ご紹介、ありがとうございます。
2014.02.16 17:10
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