最近2年あまり、フリーのSEとして立ち回っていたが、このたび転職した。50歳にして再就職。仕事内容はいままでと同じ、ITのアプリケーション開発。
3年前に転職活動をしたときは、50社あまりを受けた挙句、正社員の採用はなかったが、今回は10社程度受けて3社から内定をもらった。待遇は各社ほぼ同じだったので、安定感のありそうな会社を選んだ。まあ会社って、入ってみないとわからないけどね。
そういうわけで、なあなあの気分に喝を入れるためビジネス本をいくつか購入。
神原一光の「会社にいやがれ!」は、NHKの現役ディレクターが書いた自己啓発の類の本。
仕事はつらいことや悲しいことが多いけれども、それは自由業も同じ。会社には自由業と違って資源があるから、それを最大限活用して世の中に必要だと思う仕事をしよう、ということを説いている。
正論なのだが、彼は企画を主担当としているので、各論がわたしの仕事にはそぐわない。なので応用できる部分は少ない。ビジネス本って、ディテイルが大事だと思う。
6月に入社する会社をできれば定年まで勤めてお金を溜め、その先は別なことをしたいものだ。古本屋もやりたいし、中古CDショップも魅力だなあ。
もっとも、途中で死ぬかもしれんが。
イーヴ・ナットのピアノで、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ29番「ハンマークラヴィーア」を聴く。
ナットのもっとも大きな魅力は、音の艶やかさ。ことに高音においては、採れたての真珠のようなまるまるとした輝きを放つ。音のひとつひとつが丁寧にほぐれているところ、筋子というよりイクラ。モノラル録音なのにこんなに綺麗なのだから、実演で聴いたらどうなってしまうのだろう。
でも、この演奏では音の輝かしさよりもむしろ、じっくりと考え抜いたであろう構成力が際立っている。
冒頭は音がやや濁っている。ここに不安を感じるとともに、なにか違う雰囲気の手ごたえがあった。結果としては両方。ナットは、持ち前の音色の煌めきを半分捨てて、気迫のほうをとった。ひとつひとつの音はほろほろとほぐれているが、色はくすんでいる。曲がそういう性質なのか、ナットが意図的にしているのか、それはわからない。推進力が強い。
2楽章も同様のスタイル。勢いがいい。音の長さは最小限に切り詰め、緊迫したシーンを演出している。短い楽章だが、遊んでいない。
3楽章は全曲中の白眉。いくぶん遅めのテンポ。強弱の細かな変化をつけている。厚い低音と引き締まった高音とのコントラストが面白い。音色の抑揚。10分過ぎたあたりから音楽はじわじわと熱を帯び始め、厳格な熱狂とも言うべき世界を繰り広げる。
4楽章は導入部は速め、フーガに入るとテンポは中庸。テクニックは最高とは言えないものの、この難曲にくらいついている。くらいついて離さない根性に心打たれないではいられない。ラストは思い入れたっぷりに和音を打ち鳴らす。
1954年10月、パリ、Salle Adyarでの録音。
本屋。
在庫がなく、ご迷惑をおかけします。
6月上旬に重版できる予定です。
「ぶらあぼ」4月号に掲載されました!PR