ベートーヴェン ピアノソナタ28,29 ウィルヘルム・バックハウス(Pf)「週刊プロ野球セ・パ誕生60年」という雑誌が発行されており、毎週購読している。ベースボールマガジン社の「週刊ベースボール」の別冊である。毎号がある1年の特集になっており、60冊で60年が完結する。
例えば、15冊目の1962年は「小山、村山、二人で回転、阪神初リーグV」がメインテーマに据えられていて、これに「怪童・尾崎、東映を初の日本一に」とか「一本足打法世界に羽ばたく王の本塁打」なんていう記事が写真入りで載せられている。
で、巻末のほうにその年のペナントレースの順位と各チームの主なスターティングメンバーが紹介されていて、ペナントレースを終えた監督のコメントが寄せられているのだが、これがじつに興味深い。
「若手が多いが、精神的に負けなかったのが大きい」
(水原茂、1962、東映フライヤーズ1位)
「来年と言わず今から来季のチーム作りだ」
(三原脩、1962、大洋ホエールズ2位)
「皆が一体となって力を出し切った」
(中西太、1963、西鉄ライオンズ1位)
強かったチームのコメントはかなりマトモである。それなりに自負があるからだろうか。
それに比べ、下位チームの監督のコメントはけっこう笑える。
「選手が基本を忠実に守らなかった」
(本堂安次、1963、大毎オリオンズ5位)
「ようやく終わった。しばらくのんびりできる」
(白石勝巳、1964、広島カープ4位)
「勝率4割を超えた。来季の見通しは明るい」
(別当薫、1962、近鉄バファローズ6位)
いずれも、1年を通した戦いがいかに苦しいものかを端的に表したコメントといえよう。
今のプロ野球人も、4割を超えてヨシとする楽観さを少しは見習って欲しいものだ。
ついでのようになってしまったが、バックハウスのベートーヴェンを聴いた感想を少し。
ステレオ録音になってからのバックハウスは、「鍵盤の獅子王」のイメージとは異なるようだ。
テンポは比較的遅めであり、音そのものは軽いタッチで仕上がっている。このピアノの明るい音色は、デッカの録音の按配がきいていると推測するが、この28番は曲そのものが軽妙ともいえるくらい軽やかで幸福感のある音楽であるから、バックハウスのこういったスタイルは違和感ない。
ボタンが迷うことなくキッチリかかっている感じ。身なりのよい老紳士のようだ。
好みをいえば、2,3楽章はもう少し速めのテンポを設定してほしかった。録音当時、バックハウスは78歳。
指も昔ほどには回らなくなっていただろう。
技術の衰えに伴う解釈の変更。演奏者にとって、どのような痛みなのだろう。
じつは案外痛くなかったりして。
1963年2月、ジュネーヴ、ヴィクトリア・ホールでの録音。
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